ケアマネジャーは不要?AIに仕事を奪われる?ケアマネの今後の動向とは

ケアマネジャー(介護支援専門員)は、「要介護者と介護サービスを結ぶ要」などと言われ、介護保険制度において欠かせない存在と位置付けられています。しかし、「ケアマネ不要論」なるものが取りざたされ、最近は、AI(人工知能)の急速な進歩によってケアマネの仕事が奪われるといった声も聞かれるようになりました。結論から言えばまったく杞憂であると考えていいと思いますが、今のままでいいというわけでもないでしょう。ケアマネジャーには何が求められどう変わっていくべきなのかを考えてみました。

ケアマネジャーの現状

激減した受験者・合格者数

ケアメマネージャーは、2000年に施行された介護保険法で定められた職種です。ケアマネジャーとして働くには、年1回の試験に合格して研修を受け、登録して介護支援専門員証を手にしなければなりません。これまでの合格者数は計約70万人に上ります。しかし、2018年度の試験結果を知った介護関係者に激震が走りました。ほぼ毎年2万人以上が合格していたのに、この年は5000人を下回り、合格率10.1%という超狭き門になったのです。

受験者数激減の最大の理由は、受験資格が厳しくなったことでしょう。従来、看護師や介護福祉士などの国家資格を持っていなくても受験できた「10年以上の介護等業務従事者(初任者研修修了者やホームヘルパー2級取得者などは5年以上)」らが2018年度の試験から受験資格を失ったのです。

 

ここに含まれる人は、合格者の1割強を占めていましたから、影響の大きさが分かります。ちなみに、ケアマネジャーの資格は国家資格ではありません。

 

 

それにしても、受験者数が減りすぎという印象はぬぐえず、加えて、合格率のあまりの低さに、介護の現場や市町村、都道府県の担当者からは「こんなに難しくて狭き門になったら、ケアマネジャーのなり手がいなくなってしまう」という悲鳴のような声が上がりました。

 

それには別の理由があります。近年、以下のような理由で、ケアマネジャーの仕事の人気が下降気味だからです。

✓おびただしい数の書類の作成・提出に追われる
✓人間関係に疲れる
✓登録や更新のために必須の研修時間や費用の負担が大きい
✓仕事量のわりに給料が安い

こうした不満の背景を順にみていきましょう。

必須研修の長時間化と重い費用負担

まず制度です。ケアマネジャーの試験に通ったときや5年で切れる介護支援専門員証を更新するときには研修を受けなければなりません。そもそも、ケアマネジャーの資格試験自体が、正式には「介護支援専門員実務研修受講試験」というのです。それらの研修時間が、2016年度から長くなりました。

 

実務研修は、初めて試験に合格した人が受ける研修です。これまで任意だった実務従事者基礎研修(33時間)が必修として組み込まれたため、大幅な時間増になりました。主任研修も、ケアマネジャーの中で1ランク上の主任ケアマネジャーになるときに必要です。他の3つはそれぞれ更新するときに受講しなければなりません。

しかも、研修費用はいずれも数万円かかります。所属する施設が出してくれるケースもあるでしょうが、基本的に自己負担です。

 

狙いはケアマネジャーの「質の向上」

なぜこんなに長くなったのか。それは、受験資格の厳格化と同じ狙いがあります。

2013年1月、厚生労働省の検討会が「介護支援専門員(ケアマネジャー)の資質向上と今後の在り方に関する検討会における議論の中間的な整理」をまとめました。

検討会で主要なテーマになったのが、ケアマネジャーの質の向上で、さまざまな課題が俎上に乗せられました。

①介護保険の理念である「自立支援」の考え方が十分共有されていない
②利用者像や課題に応じた適切なアセスメント(課題把握)が必ずしも十分でない
③サービス担当者会議におけるモニタリング、評価が必ずしも十分でない・・・。

ほかにも、医療との連携や中立・公平性の確保が十分でないなども含めて指摘は10項目にのぼり、その改善策として、研修の充実と受験資格の厳格化が打ち出されたのです。しかし、研修に時間をとられることにより本来の仕事の時間が削られるため、ケアマネジャーの負担が重くなったのは間違いありません。

処遇改善で冷遇されるケアマネ

新しい方針は、ケアマネジャーのステータス向上を狙ったものでもあり、ケアマネジャーにとっても有利に働くという指摘はあります。

 

では実際にステータスを誇れるような処遇になっているのでしょうか。

2017年度介護労働実態調査によると、処遇改善加算Ⅰを取得している事業所のケアマネジャーの平均給与は34万8760円。前年から9360円アップしました。
介護職員の平均と比較すると約5万1000円高いですが、国は介護職員の人材確保を図って介護職員を対象とした処遇改善加算に力を入れてきており、2019年10月からは勤続10年以上の介護職員を対象に月8万円特別加算することが決まっています。

 

全額1人に支給されるわけではありませんが、介護職員とケアマネジャーの給与の差は縮まる傾向にあります。
このため、キャリアアップと所得アップを目指して介護福祉士からケアマネジャーに移行する人が多かった現場で、逆に介護職員に戻る動きが出てきているようです。

ケアマネジャーの役割

ケアマネジャーの仕事の面での不人気の理由を検証しましょう。
前述の厚労省検討会の指摘を見るだけでも、ケアマネジャーの仕事、求められている役割が非常に多岐にわたることがうかがえます。

求められる専門的知識と技術

介護保険法では、ケアマネジャーは「要介護者等からの相談に応じ、要介護者等がその心身の状況等に応じ適切なサービスを利用できるよう市区町村、サービス事業者等との連絡調整等を行う者であって、要介護者等が自立した日常生活を営むのに必要な援助に関する専門的知識・技術を有するもの」と定義されています。

 

具体的な仕事内容は、主に以下のようなものです。

・サービス利用者の課題を明確にするアセスメント
・課題を解決するためのサービス計画(ケアプラン)の作成
・ケアプランの実施に必要となるサービスの調整
・ケアプランを確定するサービス担当者会議の開催
・サービスの内容を継続的に把握し評価するモニタリング
・介護報酬の給付管理に関する業務

アセスメントを行うに際しては、利用者や利用者家族と面談して実態を把握しなければなりません。ケアプランは、要介護度に応じて受けられる回数や金額を考慮して、最適なプランを立てます。

 

このケアプランの原案を元に、関係者との調整をするわけですが、サービスの調整にあたっては、地域でどんな施設がどんなサービスを行っているかを十分に知っておく必要があります。

 

サービス担当者会議は、利用者本人と家族、サービス事業者、医療関係者らと調整したうえで日程を決め、会議では進行役を務めてケアプランを具体的に詰めていかなければなりません。

サービス開始後も月に1回は利用者に面談して状況を把握し、必要に応じてケアプランの修正を行います。給付管理に関しては、利用者負担額を計算してサービス利用表、給付管理票の作成などの仕事が待っています。

膨大なペーパーワークが大きな負担

ケアマネジャーの悩みの種の一つが、これらの作業の一つ一つに書類が必要なことです。それらは、ケアマネジャーがすべて用意しなければなりません。

必要とされる書類は、利用者との契約書や同意書、アセスメントシートへの記入、ケアプラン、モニタリングシートや評価表の記録、支援経過記録、担当者会議議事録、介護保険各種申請書類・・・。

実は、試験に合格して最初に受講する実務研修で、こうした膨大な仕事量と覚えることの多さを知って、ケアマネジャーになるのを断念する人もいるのです。

 

また、サービス担当者会議では異職種の人をまとめなければなりませんし、サービス利用者や家族とは常時、緊密に連絡をとる必要もあり、こうした人間関係が精神的に大きな負担と感じる人もいます。

AIとケアマネジャーの仕事

介護現場へのAIの参入が現実化しつつありますが、それによってケアマネジャーの仕事はどう変わるのでしょうか。

ケアプラン作成を商品化

2018年10月、ベンチャー企業のシーディーアイ(東京)が、AIを活用してケアプラン作成を支援する日本初のシステム「CDI Platform MAIA」を商品化しました。利用者の日常生活動作能力などを入力すると、3つのおすすめプランを提案するとともに、プランを実施した場合に予測される利用者の状態をグラフなどで分かりやすく示すという機能を持ちます。

 

また、介護関連ベンチャーのウェルモ(福岡市)は2018年から福岡市などの協力を得て、ケアプラン自動作成システムの実証実験を始めました。利用者数万人分のデータを蓄積して標準的なプランをスムーズに作成できるようにするとともに、介護事業所のデータベースも構築して、利用者の条件に合う施設を探しやすいようになっています。

 

MAIAが自立支援と将来予測を軸に、ケアマネジメントの質の向上を図って利用者により良いサービスを提供することに重点を置いているのに対し、ウェルモのシステムはケアマネジャーの「知らない」をなくすことで、知識や経験で差がつかない標準的なプランを提供することを目指しています。

 

とはいえ、どちらも目指すのは、ケアプラン作成の負担を軽くすることであり、ケアマネジャーの質の向上も視野に入っています。

国もAIシステムの実態把握に乗り出す

厚労省のAIへの期待もケアプラン作成負担の軽減にあります。それによって、ケアマネジャーが利用者とより多く向き合う時間を確保して、利用者にマッチしたきめ細かいサービス提供に活用したい意向です。

 

そのため、2018年度に「AIを活用したケアプラン作成の基準に関する調査研究」をスタートさせました。前記2社を中心としたシステムの実態把握と、AIケアプラン利用時の課題把握とフィードバックを柱に調査検証していく予定です。

 

背景にあるのが、地域包括ケアシステムの機能充実です。地域包括ケアは、高齢者が自宅や住み慣れた地域で自分らしい生活を最期まで送れるよう、介護や医療、リハビリ、予防、住まいや生活支援といったサービスを一体的に提供することを目指す体制のことです。

急増する要介護者に対して施設の整備が追い付かず、介護職員が不足し、介護保険サービスだけでは手が回らない状況の打開策として、国が力を入れており、ここでもケアマネジャーに中心的な役割を担ってほしいと考えているのです。

これからのケアマネジャー

自助努力と国の支援が必要

ここまで述べてきたことで、ケアマネジャーに求められるものが明らかになったと思います。

① 利用者や家族と向き合う時間を多くとってきめ細かいサービス提供を実現する
② 医療知識なども身に着けて、専門性を高める
③ 地域の介護保険給付外のサービスにも精通してネットワーク化を図る
④ 対人関係を円滑にするためのスキルアップを図る

ただし、そのためには

① ケアマネジャーの業務負担の軽減
② 更新研修の見直し
③ ケアマネジャーの処遇改善
④ ケアマネジャー資格の国家資格化

といった対応が、国にも求められます。

中でも処遇改善は急がれますし、次の介護報酬の見直しにおいて、手が付けられる可能性はあるとみられています。

ケアマネジャーへの期待は大きい

最初に、ケアマネジャーの資格試験合格者は計約70万人といいましたが、実際にケアマネジャーとして仕事に就いている人は20万人に満たないとみられています。既に述べてきたように、合格してもケアマネジャーにならなかったり介護職に戻ったりするほか、高齢になって自身が要介護になったりリタイアしたりしたケアマネジャーも多いためです。

 

一方で、高齢化は今後一段と進み、介護を必要とする人はまだまだ増え続けると見込まれています。厚労省検討会の2013年の中間整理では、要介護の高齢者の包括的な支援体制づくりには「介護支援専門員による質の高いケアマネジメントが利用者に提供されることが欠かせない」とうたい、ケアマネジャーの資質向上とケアマネジメントの質の向上のためには「国、都道府県、市町村、事業者が取り組みを強化する必要がある」と指摘しています。

 

AIは膨大なデータをもとに最適解と思われるものを導き出すかもしれません。

しかし、AIに人の気持ちは読み取れません。目と耳は持っていても心はないのです。

MAIAを開発したシーディーアイの社長自身、介護専門サイトでの対談で「人間が持つ機能の一部を技術的に模倣しただけ」「面倒くさい作業はAIに任せて、ケアマネジャーは、人間にしかできない心の仕事のプロフェッショナルになっていくだろう」と話しています。

 

AIとケアマネジャーは共存できるだけでなく、うまく使えばAIは心強い味方になってくれると考えるべきでしょう。

現役のケアマネジャーも、これからなろうかと考えている人も不安に思う必要はありません。むしろ、少し厳しいハードルかもしれませんが、期待に応えるべく努力を惜しまなければ、よりやりがいのある仕事になっていくのではないでしょうか。

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