テレビにも出演され、各メディアにも引っ張りだこの杉本浩司さんのことをご存知の方も多いかもしれない。そして、「かっこいい×介護=杉本浩司」というイメージを持っている方も多いだろう。だが今の杉本浩司さんの姿からは想像できないような沢山の挫折の経験がある。「かっこいい」までの道のりについて、包み隠さず話してくれた。話はそんな杉本浩司さんの学生時代に遡る。
目次
かっこよくなる為の道のり ―挫折の数だけ強くなる―
介護という仕事に出会うまで
中学時代は今よりずっと体が小さく、普段は仲良くしているメンバーからちょっとしたきっかけがあれば、ボコボコにされることが日常茶飯事だった。顔から下はあざだらけなんてことはしょっちゅうで、今思えばきつい日々だった。
高校に入学してからは、身長が伸びてやんちゃしていた時期もあって(笑)でも3年生になる頃には、やんちゃすることにも飽きて大学受験を意識していた。志望大学も決まっていて、人とは違う受験勉強をしたいという思いもあり、独学で勉強を開始したけれど、難関大の赤本なども解けてしまい、何だか物足りなさを感じた。
ふと保育士のパンフレットが目に入った。昔、保育士になりたいと思っていたことを思い出して、その場で大学受験をやめて、保育士の専門学校の受験を決意し、推薦をもらった。正直、筆記試験や面接は楽勝だったし、面接官にも「また4月に」なんて言ってもらい、絶対に受かるだろうなという手応えを感じていた。しかし、その後届いたのは不合格と書かれた紙一枚。どうしようと戸惑い、かなり焦りを感じながらも将来のことを考えた。
ファッションにも興味があった為、「かっこいい仕事」であるモデル業界で1番になろうと考えた。更にモデルをしながら、芽が出るまで違う仕事と掛け持ちできたらベストだと考え、平日休みの仕事に絞った。高齢者の方が苦手であったこともあり、自分のできないことを克服しようと介護の専門学校へ通うことにした。専門学校では、派手な見た目でちょっと浮いていたこともあって、先生にも初日から「きみに介護職は向いていない」なんて言われて(笑)
そんなある日、今でも通っている20年来の付き合いの美容師の方に誘われて、パーティに参加した。そこで一人の女性を紹介され、モデルをして楽しいことは何かと質問された。「スポットライトを浴びる瞬間が楽しい。モデルで1番になることを目指している。」と伝えたら、女性から人生を変える言葉を言われた。
「あなたはモデル業界では1番になれない。でも、あなたの経験があれば、高齢者の方達にスポットライトを当てることができるはず。」と。痛烈な言葉がすごく悔しかったけれど、強く納得した自分がいた。その瞬間、介護業界で一番になることを決めて、モデルの仕事は辞めた。挫折を経て進むことを決めた介護職への道。
―この日こそ、日本一かっこいい介護福祉士のはじまりだ―
介護と向き合い気付いた自分の弱さ
専門学校も卒業し、介護職員として働き始める頃には、コミュニケーションの中で、今後の夢を積極的に沢山聞いていた。「どこに行きたいの?何がしたいの?」と。だけど、当時の自分には、まだ聞き出した夢を叶えて あげられるスキルや知識がなくて。
それでも、職場の仲間達に対して「空き時間はみんなでベッドメイ キングしましょう!」なんて色々な提案を続けていたら、ウザい、めんどくさい 奴と思われたのかミーティングや会議にも呼ばれなくなってしまった。
入居者の方達の夢を叶えたいと思っているのに何故認めてもらえないのか、最初は理解することができなかった。しかし、当時の上司に、仲間の中で賞与の査定が1番低いことを知らされた時、ハッとした。『結果が出ていないうちは、どんなに理想を語っても認めてもらえない。ついてくる人がいないのだ。』と。
大学院での経験が自信に
そこで、大学院に通い自立支援を中心に、修士博士課程の5年間、介護の知識・理論・マネジメント・経営・経験を積みスキルを磨いた。なかでも、「歩けなかった人が歩けるように、柔らかいものしか食べられなかった人が通常の食事が食べられるようになる」といった自立支援による驚くべき結果を知る。
これは、広めなければいけない。大学院での確かな学びで、自分に自信もついた。
大学院を卒業して施設長になった。沢山の部下もでき、後輩の指導にも力を入れた。そして、もっと多くの方に自立支援について知ってもらう為、以前から行っていた講演も回数増やした。毎回本気で伝えていたら呼ばれる回数はどんどん増えていった。
多くの挫折がきっかけで切り開かれた杉本浩司さんの介護の道だが、今では年に70回程講演会を行うほどの大きな道になった。
「夢を叶える。夢は叶う。」
夢を聞いたからには、みんなで叶えたい
仕事をしていて一番楽しいと感じる瞬間は「入居者様の夢が叶う瞬間」。入居者様が何をしたいか聞き出すこと自体も楽しい。そして、その夢を仲間と共に聞く瞬間を創る。
「夢を聞いたからには、みんなで叶えるのだ!」という意識を持ち、日々その夢に向かい取り組む。大事なのは、夢が叶う瞬間を、後輩や部下に見せること。そして後輩自身がその夢を叶えること。夢が叶って後輩と入居者様が嬉し泣きしている瞬間など、心から楽しいと感じる。
後輩や部下を多く持つようになった今は、自分だけではなく、夢の成功体験を共有する瞬間を楽しみ、大切にしている杉本さん。彼が成功体験や、夢を叶えることにこだわる理由がある。
大きな後悔。だからこそ、今できることを大切に。
15年程前、僕がヘルパーとして働いていた頃のこと。当時から入居者の方の夢を聞くことを大切にしていた。ある日併設の入居施設で宿直の勤務していた際、普段は自宅に住んでおり、ヘルパーとしてうかがっているが1週間程度入居施設で過ごされていたAさんの容態が急変した。
一命を取り留めたAさんを、入院先で僕が励ましていると「私はもう夢を叶えられないかもしれない。でもね、あなたに夢を話したことで、もっと生きたいと思えたの。あなたが“何がしたい?”と聞いてくれたおかげで、到底無理かもしれない夢を語ることで、まだ長生きしたいと思えたんだよ。ありがとう。」と話してくれた。
数日後にAさんは亡くなった。その他にも、夢を叶えることができずにこの世を去った方たちがたくさんいた。介護で1番になると言っているのに、何もできなかった自分が悔しくて。
「夢を聞くだけではなく、叶えなければいけない。成功体験をつくらなければいけない。夢を叶える方法はないか、学べる事はないか。」そんな想いを強く持つようになった。介護職員の仲間に自分と同じような後悔して欲しくない。そして成功体験の共有はプラスに働く。
介護職員も「次は誰の夢を一緒に叶えよう」介護を受ける人も「私も○○さんのように夢を実現させたい!」と“夢を叶える”という目標を通して介護福祉士と入居者の双方がポジティヴに過ごすことができるようになる、良い連鎖が生まれ、良いサイクルが創り出されるから。
杉本浩司さんは、過去の後悔を胸に、今できる自立支援に全力で向き合っている。
そして介護業務の中でも、杉本浩司さんが大切にしているのは「成功体験を生み出す為の考え方の共有」だ。その考え方というのは、『その人がどう生きたいのかを、先に考えること』
介護というと、1.〇〇ができない→2.こういったケアをしましょう というできないことをフォローする為の考え方が先行しがちだ。そうではなく1.本人がどう生きていきたいかを聞く→2.その夢を叶えるために、何をしなければいけないか。できないことをフォローするのではなく、できるために可能性をオープンにすることを考えるということだ。
このような考え方の共有により、杉本浩司さんの周りには活き活きとやりがいを感じながら働く介護職員が多くいる。杉本浩司さんの後編の独占取材では、介護という仕事の魅力や、人間関係をより良くする為のアドバイスについて紹介する。
1977年千葉県生まれ。介護福祉士/介護福祉施設「ウエルガーデン伊興園」施設長/テレビなどの媒体に多数出演/「日本一かっこいい介護福祉士」として注目されている/全国で自立支援、人材育成等の講演を年間約50回、累計約500回行っている
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