【介護福祉士が語る現場】vol.5 -新人介護士がカンファレンスで緊張するのは当然?発言に迷ったときの考え方

日々の介助業務には少しずつ慣れてきた。それなのに、なぜか「カンファレンス」の時間だけは憂鬱になってしまう…そんな経験はありませんか?


「何を話せばいいのか分からない」

「看護師やケアマネジャーもいる中で、自分が発言するのは気が引ける…」

介護士として働き始めた頃、カンファレンスでこのような悩みを抱える方は少なくありません。


現場での関わりとは違い、カンファレンスになると、急に”専門的な会議”のように感じてしまい、「間違ったことを言ってはいけない」と身構えてしまうのは当然のことです。

筆者も、新人時代はカンファレンスで発言することに苦手意識がありました。


そこで、本記事では、介護福祉士として介護老人保健施設での勤務経験があり、カンファレンス業務も担当してきた筆者の経験をもとに、新人介護士が発言に悩みやすい理由と、カンファレンスで求められている視点について解説します。

新人介護士がカンファレンスで発言しづらい理由

カンファレンスで発言しづらくなる一番の原因は、ベテラン介護士と自分の「視点の深さ(見えているものの差)」を痛感する瞬間があるからではないでしょうか。


実際のカンファレンスでは、以下のような専門的かつ細かな意見が交わされることがあります。


  • 浮腫の色が以前と変わってきている
  • 歩行時の姿勢が少し傾くようになった
  • 口腔ケア後の吸入で排痰が増えている印象がある


こうした発言を聞くたびに、「自分はそこまで観察できていない」「こんな浅い気づきを報告して良いのだろうか」と気後れしてしまう方もいるでしょう。


筆者自身も新人時代は同じでした。


食事をほとんど摂られていないことや、夜間に寝付けないといった、「目に見える変化」には気付くことができても、その背景にある原因や具体的なアプローチまでは思い浮かばず、発言を躊躇してしまっていたのです。


カンファレンスで大切なのは『気になった事実』の共有

筆者が新人時代に学んだのは、『原因や細かいところが分からなくても、気になったことを共有するだけで十分』ということです。

なぜそう言えるのか、筆者が介護老人保健施設に勤務していた頃の、具体的なエピソードを紹介します。


筆者が介護老人保健施設で勤務をしていた際、排泄後の便を何度も確認されるご利用者様がいらっしゃいました。


その方は排便があるたびに、 

「私の便は、他の人の便と比べて、色が悪いだろうか」

「形は大丈夫なものだろうか」

と話されていました。


筆者は当初、

「便秘が不安なのかもしれない」

「体調の変化が気になっているのだろうか」

と考える程度で、明確な理由までは分かりませんでした。


ただ、他の介護士から同様の話を聞いたことがなく、「なぜか自分に対してだけ、繰り返し便の話をされている」という違和感だけが残ったのです。


理由は分かりませんでしたが、「もし他の職員がこの状況を知らず、後から大きな問題につながったら大変だ」と感じ、カンファレンスでこの一連の出来事をそのまま共有することにしました。


カンファレンスで発言したことで見えてきたご利用者様の背景 

筆者がカンファレンスで事実を共有したところ、中堅やベテランの介護士から、生活リズムの乱れや薬の影響といった身体面に関する意見が上がりました。


それだけでなく、以下のような「心理面」に寄り添った視点も次々と出てきたのです。

「座位を取る際に身体が不安定になってきており、自分の衰えに不安を感じているのではないか」

「老化や病気で機能低下する方を見て、自分も何もできなくなることを心配している可能性がある」

「排泄は極めてプライベートな行為であり、認知症によって自分でできなくなることへの不安や恐怖があるのではないか」


また、既往歴を確認すると抑うつの経歴もありました。

もちろん、便を何度も確認する行動と抑うつに直接的な関係があるとは言い切れません。


しかし、日頃の申し送りでは共有されていなかった「筆者しか知らない小さな事実」をきっかけに、職員全体でご利用者様の状態を改めて見つめ直し、ケアの方向性を整理する貴重な機会となったのです。


その後は排泄状況の確認だけでなく、

「最近、気になることはありませんか」

「眠りの調子はいかがですか」

といった声かけも意識して行われるようになりました。


新人介護士のカンファレンスでは事実の共有が重要 

筆者自身も、ご利用者様の言葉を単なる排泄の相談として受け取るのではなく、背景にある不安や思いに目を向けて関わる大切さに気付きました。

当初は「便秘や体調への不安だろうか」としか考えられませんでしたが、事実を共有したことで、一人では気づけない視点に触れられたのです。


原因や結論は分からなくても、日々のケアで得た事実を「まず共有する」重要性を、この経験から学びました。

ベテラン介護士がご利用者様を観察するときの視点

それでは、カンファレンスで活発な意見を出すベテラン介護士たちは、日頃からご利用者様をどのような視点で観察しているのでしょうか。

彼らは単に業務をこなすだけでなく、以下のような日々の「ささいな変化」を見逃さないように意識しています。


事例1:食事介助の場面 

食事介助の際、「いつもは完食される方が、今日はほとんど残している」「その状態が数日続いている」といった変化に気づいたとします。


ベテランスタッフは、単に「食事量が減った」という事実だけでなく、その後に起こりうる身体への影響まで先回りして考えます。


  • 栄養状態や水分バランスは保たれているか
  • 脱水や低栄養による「ふらつき」「転倒リスク」が高まっていないか


これらを確かめるために、「足や手の浮腫(むくみ)に変化はないか」「皮膚の色が以前より悪くなっていないか」といったポイントまで合わせて観察を広げているのです。


事例2:移動介助の場面

移動介助の場面でも同様です。

「いつもより立ち上がりに時間がかかる」「歩くときに身体の傾きが大きくなった」という変化を見逃しません。


変化に気づいた瞬間、頭の中では以下のような可能性を考えています。


  • どこか足や膝に痛みがあるのだろうか
  • 急激な筋力低下が起きているサインかもしれない
  • この歩き方だと、車椅子への移乗時に転倒するリスクが高そうだな


目の前の現象から「一歩先の危険性」を予見しながら注意深く見守っているのです。

ベテラン介護士は『変化の先』を考えている 

このようにベテラン職員は、「いつもと違う」と感じた変化の先を考えながら観察しています。

しかし、こうした視点は一朝一夕で身につくものではありません。


カンファレンスや介護現場で、多職種やベテラン介護士の意見に触れながら、「なぜその変化が起きているのか」「その先にどのような影響があるのか」を少しずつ学ぶことで身についていくものです。


新人介護士の段階では、まず「いつもと違う」と感じた変化を共有することから始めれば十分でしょう。

発言の質よりも共有することが大切

新人介護士がカンファレンスで感じる緊張の多くは、「きちんとした意見を言わなければ」という思い込みから来ているように感じます。


しかし、実際のカンファレンスは、答えを持っている人が発言する場所ではありません。


「こんなことがありました」という事実の共有が、その場にいる全員の視点を動かすことがあります。

筆者が経験したのは、まさにそういうことでした。


原因が分からなくても構いませんし、結論が出なくても問題ありません。

「なんだか気になるな」「いつもと違うな」と感じたのなら、カンファレンスで発言する理由は十分に揃っています。

あなたが気づいたその小さな変化が、ご利用者様を守る大切な一歩になるはずです。

用語解説

  • カンファレンス…医療や介護の現場において、多職種(看護師、ケアマネジャー、介護士、管理栄養士、リハビリ職など)が集まり、ご利用者様のケア方針や課題について意見を交わす会議のこと。
  • ケアマネジャー(介護支援専門員)…ご利用者様やそのご家族の要望に合わせ、適切な介護サービスを受けられるようケアプラン(介護計画書)を作成したり、関係機関と調整を行ったりする専門職。
  • 浮腫(ふしゅ)…毛細血管から染み出た水分が皮下組織に過剰に溜まった状態で、主に足、手、顔などの皮膚が腫れぼったくなり、指で押すと跡が残る。
  • 口腔ケア…口の中を清潔に保つためのケア。歯磨きだけでなく、粘膜の清掃、唾液分泌の促進、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)の予防などを目的として行う。
  • 吸入…医療器具を使い、薬剤や水分を細かい霧状にして気道に送り込むこと。痰(たん)をサラサラにして出しやすくするなどの目的で行われる。
  • 排痰(はいたん)…自力、または医療的なケア(吸引・吸入など)によって、気道に溜まった痰を体外へ出すこと。
  • 既往歴(きおうれき)…これまでに罹(かか)ったことのある病気や、受けてきた手術などの医療的な歴史のこと。現在の心身の状態や行動の背景を把握するための重要な情報となる。
  • 抑うつ…気分が落ち込んで活動を好まなくなり、気分、考え、行動、身体的な幸福感に影響が出ている状態。 
  • 多職種…介護現場において、看護師、ケアマネジャー、介護士、管理栄養士、リハビリ職など異なる専門性を持った職種のこと。

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