【介護福祉士が語る現場】vol.3 -長期臥床を支える服選び 介護事故を防ぐ視点と、ご家族に納得いただく説明術

「母が気に入っていた服なんです」

「最期まで父らしく、シャキッとした格好でいてほしくて」

ご家族が施設などへ届けてくださる一着には、思い出や願いがたくさん詰まっています。


その気持ちに寄り添うことは、介護職員として大切にすべき『尊厳の保持』と言えます。

特に、現場の業務を一通り経験した介護職員2年目後半から3年目の皆さんは、慣れてきたからこそ、こういった場面で悩んだことはないでしょうか。


「この服だと身体に負担がかかりそうだけど、ご家族にどう伝えればいいんだろう」


老健での勤務経験がある介護福祉士の筆者も、かつて同じ場面で言葉に詰まった経験があります。

ご家族の想いを尊重したいという気持ちと、ご本人の安全を守る責任との間で、葛藤を感じる場面は少なくありません。


長期臥床(ちょうきがしょう)の方の中には、関節拘縮(かんせつこうしゅく)や骨が脆くなった方もいらっしゃいます。

伸縮性のない服は、更衣時に無理な腕や手の動きを誘発することがあり、骨折や関節拘縮の悪化につながりかねません。
また、背中のボタンや厚い縫い目が当たり続けることで、褥瘡(床ずれ)を引き起こすこともあります。


だからこそ、『安全に過ごせる服の基準』を介護職員の皆さんの中で持ち、それをご家族に分かりやすく伝える力が必要だと感じています。


この記事では、尊厳と安全を両立する服選びの視点と、ご家族に納得いただくための伝え方をまとめました。

1.【専門視点】長期臥床の方にとって、服は『皮膚と同じ』介護事故を回避する基準

長期臥床のご利用者様にとって、服は単なる衣類ではなく『皮膚と同じ』ようなものです。

なぜならば、ご自分で衣類の位置を直すことが難しいため、少しのシワやボタンの当たりが、そのまま痛みや不快感につながってしまうからです。


介護のプロは、更衣介助(着替え)の際にどこに重点を置いているのか、意識すべき3つの視点を整理します。

視点1:前開きのつくり ー 骨折や関節拘縮の悪化を防ぐ

上半身の衣類が『前開き』であることは、安全を守るうえで重要な視点です。


長期臥床が続くと、活動量の低下により、関節が固まって動きにくくなる『関節拘縮』が進行しやすくなっています。

こうした状態の方にとって、Tシャツのような『上からかぶるタイプの服』は、着脱の際にお身体や関節に負担がかかってしまう場合があります。


高齢者は骨が脆くなっていることも多く、更衣介助の際の無理な動きが、骨折の誘発や関節拘縮の悪化を招くリスクがあります。


そのため、前開きの服であれば、関節や腕、肩を大きく動かさずに着替えが行えるため、結果的に介護事故の予防につながるのです。

視点2:衣類のフラットさ ー 持続的な圧迫による褥瘡(じょくそう)を防ぐ※1

次に大切なのは、『衣類が平ら(フラット)か』という点です。


これは、褥瘡(床ずれ)予防を徹底する上で、避けて通ることのできない重要な視点です。


長時間横になって過ごされるご利用者様で、背中の小さなボタンが当たり続けて赤みが出てしまうというケースもあります。

気づかずに放置されてしまった場合、皮膚を壊死させる原因になります。


私たち介護職員が更衣介助の終わりに『衣類のシワを伸ばす』のは、見た目というより『皮膚を守るため』のケアなのです。

視点3:腹部のゆとり ー 経管栄養の逆流と誤嚥(ごえん)リスクを防ぐ※2

経管栄養を施行されている方にとって、腹部を締め付ける衣服は注入物の逆流を招く要因となります。


過去に、ズボンのきつさが原因で実際に逆流が起きてしまったケースに立ち会ったことがあり、それ以来、ウエストのゆとりには特に気を配るようになりました。


腹部のゆとりを確保することは、結果として、『誤嚥性肺炎』のリスクを下げることにもつながるのです。

2. 【具体案】安全と『その人らしさ』を両立する一着

安全だけを優先すると、どうしても『パジャマのような衣類』になりがちです。

そうすると、本人らしさが損なわれてしまうこともあります。


先ほどお伝えした、長期臥床のご利用者様にとって『服は皮膚と同じ』という視点を大切にしながら、『安全性』と、ご家族の『その人らしい姿でいてほしい』という想いを両立させる衣類の選び方を整理しました。

① トップスとインナー

肌に直接触れるインナーは、低刺激素材で吸汗性に優れた綿100%が理想です。


その上に重ねるトップスは、軽い力で着脱できる『スナップボタン』や『ワンタッチテープ』の前開き衣類が良いでしょう。


そして、持続的な圧迫を生まないよう、背中や腕に装飾が付いていないことを確認してください。


『その人らしさ』への配慮

最近のトップスには、スナップボタンやワンタッチテープを採用していても、外見は普通のブラウスやシャツと変わらない仕立のものもあります。

ご利用者様が好んでいた色やデザインを選ぶことで、周囲が抱く『その人らしさ』のイメージを大切に守ることができます。


メリット

スナップボタンやワンタッチテープは、言わずもがな、パチッと留まる仕様です。

介助の手がもたつかないため、関節拘縮がある方の更衣でも、関節への負担や骨折リスクを最小限に抑えられると言えます。

②ボトムスと足元

ズボン選びでは、ファスナーやボタンなどの『硬いパーツ』がないものを選ぶのが鉄則です。

そして、長期臥床のご利用者様は、足がむくみやすいため、生地のゆとりも重要と言えます。


『天竺裏』などの全方向へ自在に伸びるニット素材は、伸縮性が高く、最適です。

盛り上がった皮膚を締め付けず包み込むことで、血行を阻害せず、苦痛や皮膚トラブルを未然に防ぐことができます。


また、裾がストンとした形状なら、足首への食い込みも防げます。


逆流を防ぐ腹部のゆとり

経管栄養の逆流や漏れを防ぐため、ベルトは使用せず、腹圧を適度に逃がす『ウエストゴム』の仕様を選択しましょう。

安全確保を最優先しながらも、臥床時の安楽な身なりを維持できます。

3. ご家族の『着せたい想い』を『安全な形』に変える説明術

ご家族が用意された服にリスクがあるとき、「施設ではちょっと…」と断ったとすれば、ご家族の愛情を否定することになります。


大切なのは、『結論』(どうしてほしいか)を介護のプロ視点ではっきり伝えつつ、お金をかけずに解決できる方法から順に提案することです。


次の3ステップなら、ご家族も「自分たちの想いと、本人の安全の両方を考えてくれているんだ」と納得しやすくなるでしょう。


ステップ1:今ある服の中から『似たもの』を提案する

【目的:前開きの服を優先したい】

「素敵なお色ですね!ただ、今度から『前開きの服』を優先して着ていただくことは可能でしょうか。

肩の関節が固まりやすく、今の洋服だと、着替えのたびに痛い思いをされる心配があるためです。

ご自宅に似た色味の前開き服があれば、そちらを使わせてもらえませんか?」


ステップ2:手持ちの服を『リメイク』する

【目的:マジックテープ等への加工を相談したい】

「おしゃれですね!ただ、今のままだと、ボタンが床ずれの原因となる可能性があります。

せっかくの一着なので、ボタンをマジックテープにリメイクしませんか?

見た目はそのままに、安全に過ごせます。」


ステップ3:最終手段として『新調』を相談する

【目的:柔らかい素材のものを新しく用意してほしい】

「肌の赤みを見ると、今の生地では負担が強くなっているかと思います。

ご本人の痛みをできる限りなくすために、新しく一着、柔らかいズボンをご用意いただけないでしょうか?」



冒頭でもお伝えしましたが、長期臥床のご利用者様にとって、衣類は装いではなく、皮膚と同じです。

実際に筆者も現場で関わる中で、ほんの少しのシワやボタンの当たりが痛みにつながってしまう場面を何度も見てきました。


だからこそ、

・前開き

・フラット

・ゆとり

といった基準を意識することが介護事故の予防につながると考えます。


一方で、ご家族『その人らしくいてほしい』という気持ちも大切にしなければなりません。


どう伝えるかは難しいですが、ご家族の想いを否定するのではなく、安全に過ごせる形に少し変えて提案することを意識するようにしましょう。
安全と尊厳は工夫次第で両立でき、その積み重ねが、心地よいケアにつながるはずです。


※1 出典  一般社団法人 日本褥瘡学会 褥瘡についてより引用

※2 出典  厚生労働省 喀痰吸引 P5 SlideⅡ-146:経管栄養のリスクより引用

用語解説

  • 褥瘡(じょくそう)…体重で圧迫されている場所の血流が悪くなったり滞ることで、皮膚の一部が赤い色味をおびたり、ただれたり、傷ができてしまうこと
  • 誤嚥(ごえん)…一般的には、飲食物や唾液を飲み込んだときに気道(気管)に入ってしまうこと ここでは、胃の内容物が逆流し、肺に入ってしまうこと 肺炎のリスクを高める

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