認知症の方への対応がラクになる魔法の言葉とは

私は長年介護の仕事を経験し、多くの認知症の方と関わってきました。それと同時に、認知症の方への対応の研修も数多く受講し、勉強してきました。その中で、私は認知症の方との良い関係の築き方を身に付けることができたので、皆さんにご紹介します。

魔法の言葉の基本

まず認知症の方に接する時は「否定しない」「共感する」「安心してもらう」ことが大原則です。その上で、その方の持つ世界に上手に入り込み、信頼関係を築きましょう。そうすることで、こちらの話に耳を傾けていただけるようになります。

とはいえ、認知症と一言に言っても多種多様。もちろん皆さん違う人ですから、一概に同じ方法が通用しないこともあります。そこで3名の利用者様を例に、認知症の方への具体的な対応方法をご紹介します。

Aさんの場合:信頼している人からのお願いだということにする

Aさんは、普段は比較的穏やかなのですが、いったんスイッチが入ってしまうとなかなかこちらのお話を聞いてくれません。
「こっちに核兵器が飛んでくる」「あの人が私の悪口を言っている」「近所の人がうちに嫌がらせをする」など、興奮してしまうことが多くあります。

まずは「それは大変ですね」「じゃあ怖いですね」と共感することが大事です。ただ、ここで注意しなければいけないのは、否定もしなければ肯定もしない、ということです。
「本当だ、悪口を言ってるね」「嫌がらせはひどいね」と同調をしてしまうと、余計に興奮してしまいますので、事実として肯定するのではなく、その思いや感情だけに対し、共感をします。

「この人はちゃんと自分の話を聞いてくれているな」とAさんが思ってくれれば、こちらの話がすっと耳に入りやすくなります。

そうなった後に登場するのが、Aさんの場合は長男です。

なぜなら、Aさんは離れて暮らす長男に絶大な信頼を置き、全て長男の言う通りにしておけば間違いないと思っているからです。
「長男さんがね、朝の薬お母さんに飲ませておいてって言っていました」と言えば服薬して下さいますし、「長男さんが、デイサービスをもう一日増やしてくれました」と言えば、回数増もすんなり受け入れてくれます。

まずは落ち着いてもらって、信頼する息子さんの名前を出す、そうすると「息子が自分を気にかけてくれている」とAさんも喜びますし、こちらも話を聞いてもらえるので、Aさんに対してはこういった方法を取っています。

Bさんの場合:あちらの要望を聞いてこちらの要望に応えてもらう

Bさんは被害妄想が激しく、私が訪問するたびに「ヘルパーがご飯を食べさせてくれない」「ヘルパーが押入れに私の財布を隠した」と怖い顔をして訴えます。

こういった特定の人に対する被害妄想の場合は、簡単に肯定してはいけません。「そうなんですね」と軽く返事してしまうと、ますます妄想が広がっていきます。
「ヘルパーさんの記録を確認してみますね」「じゃあちょっと財布を探してみましょうか」と否定はしないけれど、Bさんの思いはきちんと尊重します。

目の前でBさんのために色々と行動を起こしている、そんな私をじっと見ているBさんに「私が確認している間に、着替えをしておいてもらえますか?」「私はちょっとここを探しているので、Bさんはこの洗濯物畳んでおいて下さい」と交渉すると、割とすんなりと言うことを聞いて下さいます。

もし仮にBさんの訴えを何も聞かないままに「あれして」「これして」と言ってしまったら、Bさんは怒ってしまい何も言うことを聞いてくれません。
Bさんの場合は、着替えをしたり洗濯物を畳んだりしている間に、こちらから全然関係のない話を多くすれば、被害妄想はどこかに行ってしまうことが多いです。

まずは「自分の話を聞いて、自分のために何かしてくれているな」と思っていただいて、こちらの希望を伝える、これがBさんに言うことを聞いてもらえる秘訣です。

Cさんの場合:プラスになる時は否定をすることも

認知症の方の訴えがたとえ大きく事実と異なるものであっても、本人はそう思っていて、本人にとってはゆるぎない事実です。ですから、否定をしてしまうと混乱され、不穏状態になります。
そういった意味では、認知症の方の話を否定してはいけないのですが、全ての場合においてそれが正解とは限りません。

Cさんは非常に強い認知症で、奥様と2人暮らしです。
その奥様が入院され、毎日複数回のヘルパーを利用し生活されていましたが、奥様の入院が全く理解できず、来る人来る人に「お母さんがわしを捨てて出て行った!」と何度も訴えます。
こういった場合は全力で否定するべきです。「違いますよ。お母さんは入院だから、〇日に帰ってきます」「出て行ってません」。
そう伝えてもCさんは何度も同じことを訴えてきますが、こちらもその都度何度も否定します。

Cさんはすぐに会話の内容を忘れてしまいますが、出て行かれたわけではないと理解した瞬間はホッとした表情をされますので、「お母さんの代わりに私が着替えを手伝います」「お母さんは入院してるから、今日はデイサービスに行きましょう」と、こちらの希望を伝えると上手くいきます。

日頃からCさんは「どうしたらいいんだ」「今何をしたらいいんだ」と混乱されていることが多いので、事実をきっちり伝えるほうが安心される傾向にあります。
もちろん否定をする場合には、頭ごなしではなく、Cさんの思いに共感し、言葉を選んで行わなくてはいけません。

魔法の言葉は人によって違う

今回は3人の認知症の方に対する魔法の言葉をご紹介しましたが、それぞれ方法や言葉がけは違います。もちろん他にも認知症の方と接したこともありましたが、その都度利用者さんに応じて対応は変えています。

ただ、言葉はひとつではなくても、共通することは同じです。
「思いを受け入れて安心してもらってから、こちらの要望を伝える」「どういった方法であれば言うことを聞いてくれるのか、日頃から探す努力をする」この2点が大切だと思います。

言うことを聞いてくれないのであれば、それは何か本人に受け入れたくない理由があるからでしょうし、無理やり言うことを聞いてもらうのでは信頼関係は崩れてしまいます。このことに気をつけて認知症の方に接しましょう。

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