【介護福祉士が語る現場】vol.6 -視野が広がる「ながら観察」のコツ!介護事故を防ぐための視線移動

目の前の利用者様を介助するだけで精いっぱいで、周囲まで目を向けられない。


そんな経験はありませんか?


若手介護士の中には、「ほかの利用者様の異変を見逃したらどうしよう。」と、不安を感じる方もいるでしょう。

しかし、周囲を気にしすぎると、目の前の介助がおろそかになりかねません。

一方で、一人の利用者様だけに集中しすぎると、他の利用者様の咳き込みや、急な立ち上がりへの対応が遅れる恐れもあります。


利用者様の安全を守り、転倒や誤嚥(ごえん)などの事故を防ぐためには、介助中に視野を広げ、視点をこまめに切り替えることが重要です。


本記事では、複数の利用者様が同じ空間で過ごすことの多い「食事介助」「歩行介助」「レクリエーション」の3つの場面を取り上げます。

介護老人保健施設での勤務経験を持つ介護福祉士の筆者が、若手介護士の方でも今日から実践できる「ながら観察」のコツを解説します。

「ながら観察」とは

本記事で扱う「ながら観察」とは、目の前の利用者様を介助しながら、周囲の利用者様や環境の変化にも意識を向けることを指します。

ここで注意したいのは、介助を片手間でおこなったり、一度に複数の方の対応をしたりすることではないという点です。


まず最優先すべきは、今介助している利用者様の安全です。

そのうえで、介助の区切りや動作の合間など、タイミングを見計らって、周囲へスッと視線を向けます。


ずっと周囲全体を見続けるのではなく、「目の前を見る」→「周囲を見る」→「目の前へ戻る」と、意識的に視点を切り替えることがポイントです。

食事介助における「ながら観察」のポイント

食事介助では、介助中の利用者様の、姿勢、口元、表情を確認します。

一口分を口へ運んだあとは、食べ物を安全に飲み込めたかを見守ることが基本です。

そして、飲み込み(安全)が確認できたタイミングで、同じテーブルや視界に入る他の利用者様へ、スッと短く目を向けます。


周囲に目を向ける際は、窒息のリスクがある食べ方をしていないか、また普段と異なる様子がないかを確認しましょう。

次のような食べ方が見られた場合は、窒息や誤嚥を防ぐために早めの声かけが必要です。


  • 一口の量が普段より多い
  • 完全に飲み込む前に、次の食べ物を口へ運んでいる


こうした場面では、「一度飲み込んでから、次を食べましょうね。」と声をかけ、口の中に食べ物が残っていないか確認することが大切です。


また、食べ物が喉に詰まると、声や咳を十分に出せない場合があります。※1

そのため、咳の有無だけでなく、食事動作や口元、表情の変化にも注意が必要です。


筆者は介護現場で、次のような変化がないか確認していました。


  • 箸やスプーンの動きが止まっている
  • 何度も飲み込もうとしている
  • 口をすぼめるような動きをしている
  • 苦しそうに目を閉じたり、目尻にしわを寄せたりしている
  • 身体の動きが急に止まる


食事介助中の「ながら観察」では、食べ方だけでなく、口元や表情、身体の動きまで確認することがポイントです。

食形態だけで「安全」と過信しない

また、おかゆや刻み食、飲み物や汁物にとろみが付いているような食形態は、利用者様の嚥下機能に合わせて提供されています。


しかし、その日の体調や眠気、食事姿勢によって、食べる様子が普段と異なる場合もあります。

食形態だけで安全と判断せず、実際に食事をしている様子を確認しましょう。

背中しか見えない位置にいる方へのアプローチ

筆者は、背中しか見えない位置にいる利用者様にも注意を向けていました。

正面から口元や表情が見えなくても、食器の音が急に聞こえなくなったり、身体の動きが急に止まったりすることで、異変に気づける場合があります。


もし気になる様子があれば、まず目の前の利用者様が安全に飲み込んだのを確認したうえで、その方の正面や横へ回り込み、口元や表情を直接確認します。


自分がすぐ動けない場合は、他の職員へ共有しましょう。
「窓側の○○様が箸を止めたまま動かれていません。確認をお願いできますか?」のように、【名前・場所・具体的に見られた変化】を伝えるとスムーズです。


食事介助中は、「目の前の飲み込み確認」→「周囲への短いアプローチ」→「異変があれば共有・対応」→「目の前へ戻る」というサイクルを意識し、安全な介助につなげていきましょう。

歩行介助における「ながら観察」のポイント

歩行介助で最優先すべきは、介助している利用者様の足元と姿勢の確認です。


利用者様の歩くペースに合わせながら、足が前へ出ているか、身体が左右へ傾いていないか、膝が折れそうになっていないかを見守ります。

そのうえで、歩行が安定したタイミングを見計らい、周囲へスッと短く目を向けましょう。

別の利用者様が立ち上がりそうになったときの対応

筆者も以前、一人の利用者様を手引き歩行している最中に、別の利用者様が椅子から立ち上がろうとする場面に遭遇したことがあります。


こうした場面で周りの異変に気づいても、今介助している方から急に手を離してはいけません。

まずは一度歩行をストップし、目の前の利用者様を安全な姿勢(近くの椅子に座っていただく、壁側に寄るなど)で安定させることが先決です。


自分で対応できない場合は、他の職員へすばやく共有しましょう。

「食堂のテレビ前にいらっしゃる○○様が立ち上がろうとしています。確認をお願いします。」のように、【対象者・場所・状況】を具体的に伝え、ほかの職員へ対応を依頼しましょう。


周囲の異変に気づいたからといって、すべてを自分一人で解決しようとする必要はありません。

「介助中の方の安全を最優先し、見えた状況を周囲へ伝えて連携する」ことも、歩行介助中の「ながら観察」です。

「進行方向(数歩先)」の危険を早めに見つける

歩行中に周囲へ目を向ける際は、ほかの利用者様の動きだけでなく、進行方向の安全も確認します。

数歩先を見る目的は、転倒につながる危険を早めに見つけることです。


たとえば、次のような状況に注意しましょう。


  • 床が濡れている
  • 椅子や荷物が置かれている
  • 歩行器や車椅子が通路をふさいでいる
  • 曲がり角から人が近づいている


足元だけを見続けていると、数歩先の障害物や周囲の利用者様の動きに気づくのが遅れる可能性があります。

反対に、周囲ばかり気にしていると、介助中の利用者様の姿勢が崩れたときに、素早く支えることができません。


歩行介助中は、「目の前の安全確保」→「進行方向・周囲の確認」→「異変があれば安全を確保して他の職員へ依頼」→「視線を目の前へ戻す」という意識を持ち、落ち着いて対応していきましょう。

レクリエーション中における「ながら観察」のポイント

レクリエーションや集団体操では、介護士が道具を渡したり、動作を説明したり、個別に声をかけたりする場面があります。


目の前の利用者様へ対応している間は、その方の安全を優先します。

道具を渡し終えたときや説明の区切りに、周囲へ短く目を向けましょう。


集団活動では、「一人だけ動きが止まっている」「周りと違う動きをしている」といった様子に気づきやすくなります。

ただし、ほかの利用者様と動きが異なるだけで、体調不良と判断することはできません。


説明が聞こえていない、身体に痛みがある、疲れているなど、さまざまな理由が考えられるためです。


周囲との違いは、あくまで変化に気づくための“きっかけ”に過ぎません。

本当に大切なのは、「その方の普段の様子」と比べることです。

筆者は現場で、以下のような変化がないか意識して確認していました。


  • 声をかけても反応が少ない
  • 顔色が青白い、赤みが強いなど普段と異なる
  • 呼吸が乱れている
  • 臀部が前へずれ、椅子からずり落ちそうになっている
  • 上半身が左右や前方へ大きく傾いている
  • 片方の手足を動かしにくそうにしている
  • 急にソワソワと落ち着きがなくなっている
  • 顔をしかめている


気になる様子があれば、対応中の利用者様の安全を確認してから、「疲れましたか。」「どこか痛いところはありますか。」と声をかけます。

返答の内容だけでなく、答えるまでの速さや声の大きさ、表情も確認しましょう。


その場を離れられない場合は、「中央の席の○○様の上半身が前方へ大きく傾いています。確認をお願いします。」のように、対象者・場所・変化を具体的に伝え、ほかの職員へ確認を依頼します。

レクリエーション中は、「目の前の方への対応」→「活動の区切りで周囲の確認」→「普段との違いに気づいたら声かけ・共有」→「視線を目の前へ戻す」の流れを意識し、安全で楽しい空間づくりを目指しましょう。

見る場所を切り替えて周囲の変化に気づこう

「ながら観察」は、けっして特別で難しい技術ではありません。

目の前の利用者様の安全を確認したあと、介助の区切りで周囲へ目を向け、再び目の前へ戻るという、シンプルな視線の切り替えの繰り返しです。


このサイクルを意識するだけで、周囲の利用者様の「いつもと違う様子」や、事故につながる小さな変化にパッと気づきやすくなります。


最初からすべての場所に気を配ろうと焦る必要はありません。


まずは「一口飲み込んだら、隣の方の表情を見る」といったように、確認するタイミングや場所をひとつ決めることから始めてみてください。

慣れてきたら少しずつ見る範囲を広げることで、「なぜ動きが止まったのか」「次に何が起こりそうか」と、一歩先を予測した介護ができるようになっていきますよ。


※1 参考 日本赤十字社千葉県支部「食べ物が喉に詰まってしまったら」

用語解説

  • ながら観察…目の前の利用者様の安全を優先しながら、介助や活動の区切りで周囲の利用者様や環境にも注意を向けること。本記事内で使用している表現であり、複数の利用者様を同時に介助することではない。
  • 誤嚥(ごえん)…食べ物や飲み物、唾液などが、食道ではなく誤って気管へ入ること。
  • 窒息(ちっそく)…食べ物などが気道をふさぎ、呼吸が妨げられる状態のこと。
  • 嚥下(えんげ)…口の中の食べ物や飲み物を、喉から食道を通して胃へ送り込む一連の動作のこと。
  • 食形態(しょくけいたい)…利用者様の噛む力や飲み込む力などに合わせて調整された食事の形状。おかゆ、刻み食、ミキサー食、とろみを付けた飲み物などがある。
  • 手引き歩行…介護士が利用者様の手や腕などを支えながら、一緒に歩く介助方法のこと。利用者様の身体状況に応じて、適切な支え方を選ぶ必要がある。

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