認知症ケアの奇跡「ユマニチュード」の導入から実践までの流れ

ユマニチュードは認知症の現場で取り入れられている手法であり、認知症のケアとしては非常に有名な手法です。数多くの介護施設が取り入れていますが、一般的にはユマニチュードケアはあまり知られていません。
ユマニチュードを実践する際の注意点とはどのようなものがあるのでしょうか。

ユマニチュードとは

ユマニチュードとはフランス発祥の認知症介護の技術のことを言います。高額で特別な技術は必要としないにも関わらず、大きな効果が得られ「魔法のようだ!」として話題になっています。ユマニチュードはフランス語で「人間らしさ」を意味する言葉に由来します。

ユマニチュードは、フランスの体育学教師だったイヴ・ジネスト氏とロゼット・マレスコッティ氏が、病院職員の腰痛予防指導のために派遣されたさまざまな病棟・診療科で「もっとも対応に苦慮する患者」と向き合うなかから編み出した実践的なケア技法であり、ベースには「人間とは何か」「ケアする人とは何か」という考え方が存在する哲学的なものであります。

具体的には「見る」「話す」「触れる」「立つ」という4つの簡単な技術によって、認知症の方に自分自身の存在の大切さを伝え、認知症の方との良い関係性を継続的にに確立するというものです。「人間らしいケア」として日本においても「介護業界に新しい風を吹かせる」技術として注目を浴びています。

ユマニチュードの目標

ユマニチュードの目標には3つのレベルが存在します。その目標は1段階目が回復、2段階目が機能維持、3段階目が最期まで寄り添うといった3つに分けられ、「健康に害を及ぼさない」ことを絶対条件とするのです。

したがって、個人個人の症状性格に合った技術を選ぶことが大切で、認知症患者を不安な気持ちにさせ、病状を悪化させる強制的なケアや身体抑制といった行為は一切排除することを目標とします。つまり、認知症患者に寄り添った「合理的かつ最善のケア」を目指すのです。

4つの柱が肝

ユマニチュードを支えているのは4つの柱であり、見る、話す、触れる、立つという基本行動があります。

見る

相手と同じ目線の高さかそれより下から、約20㎝の近距離で優しく目を合わせます。「私の目を見てく ださい」と認知症患者に声をかけて、意識して患者の視線をつかみにい港とすることが大切です。これにより、“愛情”や“優しさ”といった肯定的な感情を伝えることが出来ます。
また、目を合わせることはもちろんですが、相手の視界に入ることも大切とされています。ケアする側の目線を、ケアされる側の人の目線と同じ高さになるようにすることで、相手の視界に入ることができるのです。

話す

認知症の方は、こちらが声をかけても返事がない場合も多く、声かけが自然となくなってしまうケースが少なくありません。しかし、返事や反応が無くても、声をかけることは重要です。あいさつはもちろんのこと、次に何をするのかをきちんと伝えることで、最初は反応を示さなかった方も反応してくれるようになるケースもあります。
また、どんな形であれ患者に対して、その場で行っている行為があり、その行為そのものを言葉にしてみたらどうかという発想のもと、オートフィードバックという技法も大切です。ケアの最中に自分の動作や行動を言葉にしてみて下さい。例えば、身体を拭く際に、「背中を拭きますね」「さっぱりとしましたね」など、ケアの内容を実況するように伝えることで、ケアをしながらコミュニケーションを図ることが出来ます。

触れる

これは包み込むように、ゆっくりと行うこと動作が基本となっています。例えば、高齢者の方の手引きを行うとした場合、通常であれば相手の手を上から覆いかぶせるように握ることが多いと思いますが、ユマニチュードでは相手の手を下から支えるように握り、その後ゆっくりと優しく手全体で相手の手を包むように握ります。いきなりつかんでしまうと,あたかも連行されるようでケア対象者に恐怖心を抱かせてしまう危険性があります。ゆっくりと触れることで、相手に安心感を与えることが出来ます。

立つ

立つということは、高齢者の方自身の目線を立つ高さまで上げて、視界を広くしてもらうということです。立つことにより座っている状態よりも視線が高くなり、脳に多くの情報が取り入れられます。そのことによって脳が活性化されて、認知症の改善に役立つことがあります。また立つことによって、「あなたと私が互いに同じ人間」と いう意識が芽生え、認知症患者の方が事故の尊厳を自覚しうることにもつながり、介護者との間に対等な絆を感じることが出来るようになります。

このようにユマニチュードは手法が細かく決められており、手法が100以上あります。細かいケアが大半ですが、しっかりと認知症の方を考慮したケアの方法になります。
これらのケアを実践をしていくと認知症の方にとって非常に良いケアとなるのです。

ユマニチュードで得られる効果

このようなユマニチュードの技術を用いることによって、認知症患者の心にやすらぎを与え、また介護職員に対し少しずつ心を開いてくれるようになるでしょう。

実際に「認知症患者の方の笑顔が増えた」「目を見て話してくれるようになり、不機嫌な時間が減った」といったような効果があるようです。また、寝たきりになるリスクの軽減、徘徊や暴言、暴力などの問題行動の減少や、拘束や薬の投与の回数の減少といったような実質的な効果も見られ、認知症患者の心だけでなく介護職員の負担も軽減してくれるでしょう。

「ユマニチュード」は個人個人の人としての尊厳を大切にする技術です。それゆえに個人によってみられる効果は様々ですが、周辺行動の改善に大いに役立つことは確かなようです。

導入までの注意点


ユマニチュードの欠点は、介護をするのに時間がかかってしまうことと、介護職員の個性が失われてしまうことです。

時間がかかるというのは、例えばユマニチュードの手法では、居室を訪ねる際はノックを3回して、3秒待って、さらに3回ノックをして居室に入るという決まりがあります。このように1つ1つの動作にどうしても時間がかかってしまうのです。

そのため、人手が少ない介護施設ではユマニチュードの導入に反対をする介護職員もいらっしゃいます。また、場面に合わせてユマニチュードを実践していきますので、同じ介護を提供することになり、職員の個性が失われてしまう可能性があります。

このようにユマニチュードが認知症のケアにとって良いからといって、安易に導入をしてしまいますと職員からの反発があることもありますので、導入は慎重にすることをお勧めします。
しっかりと職員に対して説明、指導をする。これは実戦形式ではなく、座学などを通してなぜユマニチュードを実践するのか、必要性があるのかきちんと伝えておきましょう。

お勧めの実践方法

ユマニチュードを実践するのであれば、まずは対象者を決めてその方に対して実践をしてみると良いでしょう。全員に対してユマニチュードを実践してしまいますと現場が混乱してしまいますので、まずは一人からの実践をお勧めします。
そして、その一人を決めたのであればユマニチュードを実践する前とした後の行動変化を詳しく記録しておくことをお勧めします。記録をすることによって、ユマニチュードの効果を理解することが出来ます。

継続していくことが大切

ユマニチュードの実践は簡単なことではありません。手法を学ばなくてはいけないですし、実践や記録も大変でしょう。しかし、ユマニチュードは継続して長期的な視点で実践をすることが大切になります。高齢者の方の中には劇的な変化をする方もいますし、不穏の方が安心して生活を送れるようになることもあります。

導入は大変だと思いますが、きちんと実践をすることによって効果が得られるのがユマニチュードを実践するメリットであるといえます。最低でも3年以上は実践をするようにしましょう。3年も経てば介護職員も慣れてきますし、新しい職員が入ってきたとしても指導等は非常にスムーズに進んでいくでしょう。

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

おすすめの記事