介護夜勤の実情まとめ~勤務体制・シフト・休憩など~

施設における介護に夜勤は欠かせません。夜勤は深夜割増賃金が付きますので、若い人なら進んで夜勤に就きたいと思っている人もいるでしょう。しかし、求人サイトで夜勤の介護職員を専門に求める案件が沢山あることからも分かるように、ただでさえ人手不足の介護業界で、夜勤の要員を確保するのは難しいのが実情です。それが原因とみられる現場のひずみも、あちこちに出ています。介護施設における夜勤の実態はどうなっているのか、どんな課題があるのかを見ていきましょう。

夜勤の勤務シフト

最も多いのは2交代制16時間勤務

日本医療労働組合連合会(医労連)は2013年から毎年、介護施設夜勤実態調査を続けています。サンプル数はあまり多くはないのですが、回答施設が毎年異なるにもかかわらずほぼ同様の傾向を示していますので、実態をうかがい知ることができます。

 

2017年調査結果によると、施設単位では2交代制が85.5%と圧倒的に多く、日勤→準夜勤→夜勤の3交代制が7.3%でした。2交代制だと、日勤から引き継いで翌日の日勤に引き継ぐまでの勤務になりますが、実際には2交代夜勤のうち81.8%、全体では69.4%が16時間勤務で、長時間労働が常態化しているのが分かります。

中でも、グループホーム(GH)では87.0%が16時間以上の2交代制で、78.3%の小規模多機能型居宅介護・看護小規模多機能型居宅介護とともに高くなっています。

 

このほか、日勤→遅番→深夜勤という変則3交代制や、2交代制と3交代制の混合、当直と2交代制、当直と3交代制の混合など、いろいろな勤務形態があります。

勤務時間と労働基準法

労働基準法は、1日の労働時間は8時間、1週間で40時間と定めています。これを超えると時間外労働(残業)となり、割増賃金を支払わなければなりません。

この残業時間自体、働き方改革で2019年4月から大企業(中小企業は2020年4月から)に適用されるようになった決まりで、原則として月45時間、年360時間までに規制されました。

 

ところが、24時間勤務が避けられない介護業界では、多くの施設がこの法定労働時間の適用を受けない変形労働時間制を採用しています。これは、労働時間を1日単位で見るのではなく、月単位、あるいは年単位でみるものです。

つまり、1カ月あるいは1年で平均して週に40時間以内の勤務であれば法定労働時間とみなすというものです。したがって、1日の労働時間や夜勤の回数だけで問題になることはないのです。

 

変形労働時間を採用しているかや、夜勤の規定については労働協約や就業規則、あるいは夜勤協定を見れば確認できますが、日医連の調査では、回答のあったうち約4割の施設が夜勤協定を結んでいませんでした。勤務体制に不安がある場合は、きちんと施設側に確認しておく必要があります。

介護夜勤の勤務体制

半数以上が1人勤務

2交代夜勤職場の54.6%が1人勤務でした。

 

一方、公益財団法人介護労働安定センターも毎年介護労働実態調査をしており、深夜勤務時の職員数を調査しています。こちらは勤務シフト別にはなっていませんが、2017年度調査では、施設系で働く介護職員の43.5%が「1人勤務」と答えていました。

 

厚生労働省は、介護現場における夜勤の職員配置基準を設けています。下の表は簡略化したものですが、日医連調査で回答があった施設は、1人勤務を含めていずれも違反はありませんでした。また、特養では回答した施設の半数以上が基準以上の職員を配置していました。(配置数には介護職員だけでなく看護職員も含まれます)

しかし、この基準自体が、仕事の実態に合っていないという指摘があります。では、夜勤にはどんな仕事があるのでしょうか。

✓食事の準備
✓配膳、食事介助、下膳
✓服薬の準備
✓着替えの手伝い
✓排泄の介助・処理
✓おむつ交換
✓体位変換
✓夜間の巡回
✓ナースコールへの対応
✓介護記録の記入
✓日勤者への引継ぎ

 

詳しい夜勤の仕事内容はこちらをご覧ください。

 

主なものでこういったところでしょうか。もちろん、夜間巡回やナースコールによって重大な異常が見つかれば、それだけで一晩を費やするケースも出てくるでしょう。また、昼夜逆転の利用者もいます。1人勤務だとサポートもなく、おむつ交換や体位の変換も一人でしなければならないため、重労働で時間もかかります。

ワンオペの問題点

夜間に店舗や施設の営業、業務を1人でこなす「ワンオペ」には、業務が過酷だとして強い批判が上がっています。チェーン展開しているファーストフード店では第三者委員会からの改善勧告を受けて、ワンオペが解消できない店舗は休業措置を取りました。

 

介護業界においては、長崎県のグループホームで2006年と2013年に夜間に火事があり、それぞれ7人と5人が亡くなりました。スプリンクラーの未設置や避難経路が確保されていなかったなどの施設の不備が大きな原因でしたが、どちらのケースも夜間勤務者は1人でした。

また、2016年には台風で岩手県の高齢者グループホームが濁流に襲われ、9人が犠牲になっています。このときも勤務していたのは1人だけで、避難しようとしたが間に合わなかったといいます。

夜勤に就いている人の中には、ソリの合わない人と一緒だと気を遣って余計に疲れる、マイペースで仕事ができないなどとして複数での勤務を敬遠する人もいますが、入所者の安全面から見ると、リスクが非常に大きくなると言わざるを得ません。もちろん、介護職員自身の健康被害も避けられません。

夜勤の日数

介護業界には日数制限がない

看護業界では、1992年に制定された看護師確保法に伴う指針で、夜勤は「複数体制・月8日以内に向けて努力する」という方向性が示されました。看護師の離職防止と夜勤勤務の負担軽減を図ったものです。

日本看護協会も2013年に定めた「夜勤・交代制勤務に関するガイドライン」で「3交代で月8回以内を基本とする」としています。2交代なら月4回以内ということです。こうした〝ルール〟で、看護師の夜勤体制はかなり改善されています。

 

しかし、介護現場にはこのようなルールはありません。看護師のガイドラインに沿って実態を見てみましょう。
日医連の調査では、3交代制では月9回以上の職員が7.4%、2交代制では月4回以上が36.4%にのぼっていました。調査に答えた特養や老健、GHなどには夜勤専門の職員がいますので、一概には言えませんが、ローテーションの2交代制で夜勤を回している職場では、かなりの負担がかかっていることがうかがえます。

休憩・仮眠

4割強の施設で仮眠室なし

労働基準法は、労働時間が8時間を超えると1時間の休憩を与えることを義務付けています。16時間を1分でも超えると、2時間が必要です。

日医連の調査では、3交代制施設の休憩・仮眠時間の平均は1時間11分、2交代制施設では2時間10分でした。ただし、これは就業規則に定められた時間で、実態は異なるとみられます。また、2交代制施設で1時間と回答したところもあり、明らかに法令違反です。

 

1人夜勤だと、休憩や仮眠中にナースコールに呼び出されることもあるはずで、就業規則通りに休憩がとれているか、疑問が残ります。

 

また、労働安全衛生規則では、夜勤を行う施設では「仮眠場所を男性用、女性用に区別して設けなければならない」としていますが、41.2%の施設で仮眠室が「無い」と回答していました。中でも、施設規模が小さいGHや小規模多機能型居宅介護施設などでは、半数以上に仮眠室がありませんでした。

 

一方、介護労働安定センターの調査では、施設系で働く介護労働者の29.3%が、仮眠や休憩が「とれない」と答え、「十分とれる」は9.7%にとどまっていました。

勤務間インターバル

2割の施設で12時間確保されておらず

働き方改革では、勤務間インターバルをしっかりとることが、努力義務として会社に課せられることになりました。しかし、目安は示されておらず、どうなるかは今のところ分かりません。

2015年の国の調査では、勤務間インターバルを制度として導入している企業は2.2%しかなく、インターバル時間は8~13時間程度と差がありました。

 

夜勤においては昼夜逆転の仕事になるため疲労度は大きく、日勤以上のインターバル確保が望まれますが、日医連の調査では12時間以上のインターバルが「確保されていない」と回答した施設が約2割ありました。

さらに、37.8%の施設が「夜勤明け翌日が勤務だったことがある」と答えていました。

夜勤手当

大きい施設間格差

労働基準法では、22時~翌5時までの深夜勤務に対して、通常の賃金の25%以上増しの賃金を支払わなければならないとされています。では、介護職員の夜勤は給料にどれぐらい反映しているのでしょうか。

医労連の調査では、2交代夜勤の場合の夜勤手当は下の表のようになっています。施設によって支給方法は異なりますので、医労連が独自に額面に換算した数字です。

 

正規職員の平均は5747円ですが、業態によってバラツキが大きく、老健施設と特養では5000円以上の差があります。同じ業態でも、老健施設では最高額と最低額では約1万1000円もの開きがありました。

 

一方、日医連の調査では、回答した施設で働く職員の約2割が非正規でした。非正規職員の平均額がおおむね正規職員より多いのは、基本給(時給)と合わせて、夜勤1回いくらという形で決められているからだとみられます。求人サイトでも、このような形の求人が多く、夜勤1回で2万7~8000円という求人も目立ちます。

まとめ

介護職員の給与は、一般労働者の平均に比べて年収で約160万円も少ないのが現状です。介護業界が人手不足に苦しむ大きな要因が、この所得格差ですが、厳しい勤務実態がそれに輪をかけているようです。

長時間労働が体に大きな負担をかけるのは当然ですが、そもそも昼夜逆転の勤務自体が人間の生理的なサイクルを狂わしますし、短い睡眠時間は病気のリスクを高めます。介護現場からは国に対する改善要望が上がっていますが、あまり改善したとはいえません。

しかし、働き方改革に続いて、在留資格に「特定技能」が加わり、対象となる14業種に介護が入りました。すでに東南アジアの一部の国では、日本語能力試験が始まっています。こうした動きが、介護職現場の労働条件改善につながる可能性もあります。

介護に従事していれば、夜勤シフトに組み込まれることもあります。ここで紹介した実態を理解して、利用者の安全と自分の健康を自ら守るように努めましょう。

 

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