【介護福祉士が語る現場】vol.2 -新人介護職の悩みは人間関係!孤立を防ぐ『声かけ技術』のコツ

「誰かの役に立ちたい」そのような温かい気持ちで、介護現場へ飛び込んだ新人職員を待ち受ける最大の壁は、介助技術以上に「人間関係」と言えるのではないでしょうか。


公益財団法人介護労働安定センターの調査(※1)によると、介護職の離職理由の多くが「人間関係」であり、その内容の約半数は「上司や先輩の指導・言動がきつい」ことだと示されています。

せっかく「頑張ろう」と入職しても、現場の空気がピリピリしていると、誰でも萎縮してしまうものです。


特に1年目から3年目の新人職員は、忙しそうに動く先輩を前にして、「今、声をかけたら怒られるかも…」と、必要な相談や報告を飲み込んでしまうことも多いのではないでしょうか。


実は、この「言い出せない空気」こそが、新人職員の孤立を生む一因です。


相談や報告が滞れば、上司や先輩には、「何を考えているのか分からない新人」と映り、一方、新人職員は、「自分は嫌われているかも」と不安になってしまいます。

このすれ違いが負のループを生み、新人職員は徐々に職場に居づらくなってしまうのです。


今回は、介護福祉士として老人保健施設で勤務した筆者が、「過度な気遣い」で失敗した経験をもとに、自分を守りながら、現場を円滑に回すための「声かけ」のコツをお伝えします。


【体験談】老健2年目『過度な気遣い』が招いた最悪の入浴介助

筆者が老健に入職して、2年目を迎えた頃の話です。

仕事には慣れてきたものの、どうしても「気の強いベテラン職員とのペア業務」は苦手でした。


とある日の入浴介助にて、筆者と先輩職員の2人体制で、ご利用者様8名を担当することになりました。

ペアを組んだのは、仕事は早いが口調が厳しく、常にピリピリしたAさんです。


職員2人体制と言っても、個浴が2ヵ所あり、それぞれに職員が入るスタイルのユニットケアなので、実質的には1人での介助となります。


「Aさんに負担の重いご利用者様をお願いして、嫌な顔をされたら嫌だな…」


そう考えた筆者は、本来なら2人介助を推奨しているご利用者様を1人で請け負い、介助を始めました。

自分のキャパシティを超えていることは薄々分かっていましたが、「自分が我慢すれば丸く収まる」と信じ込んでいたのです。


しかし、現実はそう甘くはありませんでした。


車いすからシャワーチェアへの移乗時に、ご利用者様の臀部(お尻)が座面の中央から横にずれて、体勢が崩れてしまいました。

うまく立て直せず、やむを得ずそのままの状態で入浴介助を続けますが、無理な姿勢が続いたことで、ご利用者様から「息が苦しい」と訴えがありました。


すぐにご利用者様のお身体を抱え直し、移乗の仕切り直しを行うと、体幹の傾きが改善されて呼吸が楽になったことが確認できました。


ところが今度は洗髪や洗体がスムーズにいかないことで、お湯に触れない時間が長くなり、「寒い」という声も上がってしまいます。


そして、やっとの思いで入浴を終え、シャワーチェアから車いすへ移乗する際に事件が起こりました。


床面が濡れており足元がふらついてしまい、危うくご利用者様と共に転倒するところだったのです。


筆者が新人のため、Aさんはこちらを気にかけていたのでしょう。

隣の浴室からその物音を聞いたAさんは、激怒して駆け寄ってきました。


「できないなら最初から言って! 危ない!利用者さんに失礼でしょ!」


当時は、Aさんの厳しい言葉にひどく落ち込みましたが、自分の『過度な気遣い』が、「利用者様の日常を壊してしまいかねない、あり得ない行為」だったのだと身に染みて痛感したのです。

孤立が生まれる心理:なぜ「ピリピリした上司や先輩」を怖いと感じるのか

なぜ、忙しそうな上司や気の強い先輩を前にすると、声をかけるのを躊躇してしまうのでしょうか。

「自分で解決をしないと」という心理

「これくらいは、新人でもできて当たり前と思われているはず」という焦りや、「聞いてしまったら無能だと思われる」というプレッシャーもあるでしょう。


こういった思いから、『自分で何とかしよう』としてしまうのです。


「相手の不機嫌は自分のせい」という思い込み

先輩職員がピリピリしているのは、あなたのせいではありません。


単に人手不足で余裕がないか、あるいはその先輩自身の性格の問題であることがほとんどです。


しかし、真面目な人ほど「自分が何か怒らせることをしたのかも」と過剰に反応し、萎縮してしまうのでしょう。

【解決策】あえて自分から声をかける!「迷ったら即確認」が鉄則

このように、新人職員が周囲の空気感に圧倒されて、相談や報告をしないことで、孤立をしてしまうケースが多々あります。


孤立を防ぐ一つの方法は、勇気を持って『沈黙を破る』ことです。

不明点や判断に迷うことがあれば、その瞬間に声をかける習慣をつけましょう。


ただし、頭の中を整理して、要件をまとめてから伝えなければなりません。

忙しい職員にとって、「結局何が言いたいの?」と感じるような長い話は、大きなストレスになるためです。


声かけは「30秒以内」で伝えることを意識しましょう。

結論から伝える!相手をイライラさせないテンプレート

まずは結論から伝えて、その後に詳細や不明点を話すと、相手は即座に状況を理解できます。

要件を伝える際は、以下の要素を意識して構成しましょう。


  • 【クッション言葉】相手の状況を気遣い、話を聞く体制を作ってもらう
  • 【結論】今、自分は何をしてほしいのか(確認してほしい、助けてほしい等)を明確にする
  • 【理由・詳細 or 不明点】一人で判断できない根拠や、現在の不明点を段階的に伝える

この3ステップを意識するだけで、声かけの質は劇的に変わります。


具体例1

「お取込み中のところ、申し訳ないです。(クッション)

〇〇さんの移乗を手伝っていただけますか。(結論)

以前、私1人で移乗介助をした際に足元がふらついたことがあり、転倒リスクが高い方だと判断しました。(理由・詳細)」


このように、「なぜあなた(先輩職員)を呼んだのか」という正当な理由を添えれば、相手も介護のプロとして動かざるを得ません。


新人の時は分からないことや不明点が都度、発生するものです。

しかし、「どうすればいいですか」と丸投げにしてしまっては、「自分で考えていない」「職務を放棄している」と判断されてしまいかねません。


具体例2

「お忙しいところすみません(クッション)

△△さんの夜間の尿パッドについて相談させてください(結論)

昨日から夜間の尿漏れが発生しているとお聞きしました。

夜間は、尿パッドを今の170ccから吸水量の多いものへ変更でよろしいでしょうか。200cc以上が安全かなと思いますがいかがでしょう。

また、明け方は見守りをしながらトイレ誘導が可能なので、初回トイレ誘導時に100cc台に交換する認識で問題ないですか。(不明点)」


このように具体的な解決策を考えてから確認すれば、適切なフィードバックを得られて、あなた自身の成長にも直結します。

職場の「ピリピリ」や苦手な先輩に嫌な顔をされても気にしない割り切り術

どれだけ丁寧に上司や先輩へ声をかけても、不機嫌な対応をされることはあります。


その時は、こう割り切りましょう。


「相手の機嫌をコントロールすることはできないが、自分のやるべき相談や報告は果たした」


あなたが声をかける目的は、上司や先輩と仲良くなることではなく、ご利用者様の生活を守ることです。


嫌な顔をされても、きちんと状況を伝えた時点で、業務上の責任は果たされています。

相手の感情の責任まで、あなたが背負う必要はないのです。

自分から声を上げることで仕事はやりやすくなる

筆者が経験した入浴介助の失敗も、もし最初に、「1人で対応する自信がないので、フォローをお願いできますか」と、Aさんへ一言加えておけば、結果は違ったはずです。


自分から声を上げることは、弱さを見せることではありません。

責任を果たそうとする「誠実さ」の表れです。


新人の時こそ、積極的に不明点を周りに共有して、自分なりの考えを提示しましょう。

自分なりの考えをもっていれば、上司や先輩も「新人職員はここで困るんだな」「仕事を覚えようとしているんだな」と、好意的に受け取ってくれるはずです。


人となりを知ってもらえれば、自然と連携はスムーズになり、驚くほど働きやすくなるはずですよ。


※1 出典:公益財団法人 介護労働安定センター 令和6年度「介護労働実態調査」結果の概要について P4  3.中途採用者の前職等の状況 ― 直前の介護関係の仕事を辞めた理由は「職場の人間関係に問題があったため」が最も高い(2)直前の仕事を辞めた理由(P17~18)より引用

用語解説

  • 公益財団法人 介護労働安定センター…厚生労働省所管の公益法人のこと。介護労働に対する支援事業を実施している。
  • ユニットケア…在宅に近い居住環境で、ご利用者様1人ひとりの個性や、生活のリズムに沿ったケアを行うこと。ここでは個浴のケアが該当する。
  • シャワーチェア…入浴用のいすのこと。足腰が弱くなった高齢者や要介護者が、浴室で座ったまま安全、快適に体を洗えるように設計されたいす。

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