【女性×介護】をテーマに、過去~現在を知り、未来を創造する対談。今回は、介護福祉士として活躍しながら講師として教壇に立っている東京未来大学福祉保育専門学校の梶井瑠璃子先生にお話を聞いてきました。
目次
介護福祉士と講師、二足の草鞋を履くキャリアを選んだ理由とは
— 梶井先生のご経歴をお伺いできますか。
福祉関係の専門学校を卒業後、約4年にわたって介護職として勤めていました。ちょうど3年目の時に新人教育を任され、「人に何かを伝えることは、とても難しい」と痛感。
その時恩師から、介護教員講習会を紹介されたのがきっかけで教員の道に進みました。現在は、週1回の講師と派遣の介護福祉士として働くダブルワークです。
— 介護教員講習会には、介護の仕事を続けながら通われたのですか。
はい。多くの受講者が約7ヶ月間の期間を日中は仕事、夜は授業というように通っていました。私もその1人です。
— さぞかし大変だったのではないかと…高校卒業後の進路で専門学校を選択したのは、何かきっかけがあったのですか。
祖母と一緒に住んでいたので、お年寄りが身近でした。幼少の頃から家には祖母の友人が来ることも多く、老人ホームで遊んだりすることは生活の一部。特別なきっかけはなく、自然な流れです。
— 高校時代の友人と、自身の進路についてお話することもあったと思いますが、どんな反応でしたか。
特別な反応があったわけではなく、どちらかと言えば友人よりも母に心配されました。体力勝負の仕事でもあるので健康面が特に気になったようですね(笑)最終的には、「やりたいことならやってみなさい」と背中を押してもらいました。
— 今後のキャリアはどうされる予定なのでしょうか。
正直明確なものは決めてはいません。ですが、教員として学校に戻ってきて、現場と学校で学ぶことのギャップは感じています。教員になったばかりの頃は、現場を知っている立場だからこそ「生徒に現実を教えてあげられていない」と悩むこともありましたね。
現場のリアルと学校で学ぶことのギャップを埋めることが、教壇に立つ私の使命
— 現場と教育の場とのギャップですか。具体的にはどのようなものが挙げられますか。
本来、介護には「自立を支援するためにできることは見守る、できる可能性を引き出す、利用者さんが利用者さんらしくいられるようにする」など大切な考え方があり、それを、生活の中でのリハビリやADL(日常生活動作)の低下を防ぐことに繋げています。
しかしながら実際の現場では、「時間、人員」の問題で取り組むことが難しい状況です。生徒は現場のことを知らないので、実習に行った時に感じる印象と、学校で学んだ本来あるべき介護の姿との間に違和感を覚えるのではないかと私は考えています。
だからこそ、私は現場を知っている立場として、学ぶことの大切さや現場での活かし方を、しっかりと生徒に伝えていかなければという使命感をもって教壇に立っています。
— 確かにギャップを感じる生徒さんが多いかもしれませんね。次に、介護現場で働く方の年齢層についても教えていただけますか。
もちろん、施設によって異なるとは思いますが、私がいた施設の平均年齢はとても若かったと思います。20代が多かったですね。だからなのか、勢いもありましたし、何かに取り組もうと必死でした。
— そうなんですね。残念ながら『介護現場=明るい』というイメージはまだあまり定着していないのが現状ですよね。
そうですよね。私も専門学校の入学式の日、髪の毛を黒染めして動きやすい服装で行きました。決してオシャレに興味がなかったわけではなく、むしろ興味があったのですが、やっぱりイメージ先行で「派手にしてはいけない」という意識があったのでしょうね。実際は全然違いますよ!イメージって怖いですね(笑)
1社目の経験が、私の介護観の全て
— 専門学校を卒業し、介護職、講師のご経験を通して、梶井先生の介護に対するお考えに変化などはありましたか?
1社目の経験で得られたことが大きかったと感じています。介護を通じて、利用者さんの倫理観や、今まで生きてきて得た価値観を知ることができるんだなと思いました。
利用者さん自身が介護を通じて「大切にされているんだなぁ」と感じること、ご家族が「うちのお母さん(お父さん)、きちんと看てもらっているんだなぁ」と感じることは、きっと些細なことの積み重ねから生まれるものなのだと思います。
例えば、利用者さん自身の私物や居室にあるものを雑に扱うことは、利用者さん本人に雑な対応をしていることと同じではないでしょうか。そのような場面に遭遇したご家族は、決して安心できないと思います。むしろ不安しかない。やはり、利用者さんへの対応一つ一つ(声かけ、触れ方、私物を含め生活の場の整理など)を大切にすることが、その方の尊厳を守ることに繋がっているということを1社目で学び、経験できたことは大きかったですね。その方らしさを活かした介護をすることの大切さを日々感じています。
— 素敵ですね。介護の仕事の正しい知識を広めていくことで、福祉系の専門学校や大学への進学率も上がるのではないかとも感じます。介護のイメージや課題はどのようにお考えですか?
介護のイメージについては難しい問題ですよね。介護福祉士や社会福祉士という国家資格があり、専門性を持った仕事であるにも関わらず、家庭介護の延長のように捉えられるケースが多いのが現状のため、その地位が確立されていないという課題はあると感じています。
現場で働くプロフェッショナルが、専門性をもっとアピール出来るように努力していかなければ何も変わらないのかなと思います。ちなみに約6年前から、介護職でも研修をしっかり受け、適切な技術があれば、吸引などの医療行為も出来るようになりました。大きな進歩だと思います。
— 施設には介護職の方だけではなく、様々な職種の方がもいらっしゃると思いますが、現場ではどのような関係性が大切だと思いますか。
学校で学ぶことの中に『他職種連携』という内容もあります。様々な職種の連携により利用者さんや、ご家族の生活を支えていくので、みんなが対等であり、それぞれの役割や専門性を活かして協働すべきです。
それぞれの職種や職務内容が違うので上下関係ではなく対等。ですが、介護職だからこそできることをもっとアピールし、他職種の方々からの理解を得ることで、印象や待遇も大きく変わってくるのではないでしょうか。
— 評価制度についてはいかがですか。ダイレクトに給料にも影響しそうなポイントです。
頑張っていることへの評価基準が不透明なことは課題かもしれません。例えば、派遣会社に登録をして仕事に取り組む場合、「頑張ったら時給は上がります」と言われることもあると思いますが、その基準は何でしょうか。
ある派遣会社では、社内の試験に合格することで時給が上がるそうです。頑張っている基準は人によって違う。自分では頑張っていると思っていても他人が評価してくれない限りは頑張っているとは認められない。評価の基準を明確にしてくれている介護系の派遣会社が増えるだけでも、やる気になってくれる介護職は増えると思いますね。
派遣の例を挙げて話しましたが、評価制度という視点で考えれば、正社員で働く場合も同様だと思います。正しい評価と、その評価が反映された給料であれば、更にやる気に繫がるでしょう。
— この業界に携わる全ての人達が、他人事ではなく自分事として捉えることによって、制度面とは別のアプローチからの変革に繋がるかもしれませんね。
国の方針では、人材不足のために簡単に取得できる資格を増やすなど対策に取り組んでいます。しかし、まずは現在の介護業界の待遇を改善して、離職者を減らし、潜在介護福祉士が再就職したくなるような環境を整えることが最重要ではないでしょうか。
これが出来なければ、負の連鎖が続くと私は感じています。依然として待遇の改善が不十分であるにも関わらず、昔に比べて介護職に求められるものが多くなってきているので、介護職の負担は増加しています。現在でも意識の高い職員がたくさんいますので、やはり、正しい評価をしていただきたいです。
— 介護業界の待遇の改善という課題以外にも、もっとこうしたらいいのでは?と思う課題があれば教えていただけますか。
施設形態をもっとシンプルに出来ないかなとは考えますね。施設というキーワードだけでも、介護業界には複数のサービスがあります。
今はまだ必要がない方も含めて、事前にどのようなサービスがあるのか調べておくことで、いざという時に求めているサービスを正確に選択できると思います。ただ、種類が多いのと複雑なのは間違いないので、シンプルに分かりやすくなれば親切かなと思います。
「僕が、私が、業界を変える!」そんな人財を育てていくことが、私ができる介護業界への恩返し
— 次は介護のアピールしたいポイントについてお伺いできますか。
アピールしたいポイントはたくさんあります(笑)1番お伝えしたいことは、私にとって、“利用者さんと接することは「癒し」に繋がっているということ”でしょうか。(語弊があるかもしれませんが)この仕事は、自分の本当の家族と同じくらいのコミュニケーションをとる必要があります。
毎日、色々なお話しをすることで新しい気付きがあったり、私自身が利用者さんに助けられたりすることもあり、感謝の連続です。また、世間的には「介護が大変で暗い」というイメージが強いと思いますが、「介護は楽しい!」ということもアピールしたいです。
もちろん、大変なこともありますが、その分些細なことでも利用者さんやご家族が喜んでくれると、大変さは吹き飛んで本当に嬉しいですし、やりがいを感じています。
— 素敵ですね!家族と同じようにコミュニケーションを取ることが、梶井先生の仰っていた介護観にも繋がる大切なポイントだと思いました。ところで、最近では老人ホームへの職場体験が中学校主催で行われるなど、若い世代との交流も増えてきたように感じます。
私の時代は、近所の商店街に行って、お店を手伝うという職業体験でした(笑)私が介護の仕事に就いたからかもしれませんが、中学生が老人ホームに職業体験に行くなんて嬉しいですね!
施設側としても、せっかくの機会を無駄には出来ないので、生徒達に楽しんでもらいながら体験出来るプログラムなどを企画し、準備することが大事なのではないかなと思います。介護の魅力を積極的にアピールできる絶好のチャンスなので、施設側の努力が求められると思いますね!
— 施設側の努力ですか。現場の改革が一番重要になりそうですね。
そうですね。先程お話しした通り、今のままでは、現場で働いてみて感じることと、学校で学んだこととのギャップは埋まらないと思います。そして、そのギャップをきっかけに離職していく可能性もあります。
この無限ループが続いてしまうことが怖いですね。また、人員不足などの原因により、介護のあるべき姿を実現したくても出来ない現状も課題の1つです。介護業界全体が、現場改革に向かって努力していくことは必要ですが、それだけでは解決できない問題であるとも思います。
『アクティブ福祉』というイベントをご存知でしょうか。もし、「介護の仕事は、ただ介助しているだけだ」と感じている方がいるのであれば、足を運んでいただきたいですね。色々な取り組みを導入して、変えていこうと頑張っている施設はたくさんあります。
イベントでは、施設ごとの研究や取り組みを発表するプログラムがあり、研究内容も色々考えられていて、介護って奥深い仕事なんだということを知ってもらえると思います。ただ介助しているだけではありません。
このイベントは有料ですが介護従事者以外の方も参加出来るので、ぜひ一度足を運んでもらいたいです。こういうイベントを含め、介護業界を変えるための取り組みがもっとメディアで発信されることを期待します。
— 良いですね。最近話題になっている介護ロボット等の導入事例も紹介されていますか?ちなみに、梶井先生は介護の現場でITの力を借りたことはありますか?
まだ使ったことはないです。排泄のアラームも対象者を間違えなければ活用出来ると思いますし、おしゃべりロボットはいいですね!利用者さんの話し相手になってくれるロボットがあれば、即導入希望です(笑)
— 最後に、梶井先生は今後も教育と介護の現場の2つの側面から介護業界を見つめることが出来ると思いますが、どんな介護業界になることを期待しますか。
私は、介護の未来が暗いとは決して思ってはいません。ですが、こうしてお話をさせていただく機会があると、やっぱり「介護のイメージは良くないんだな」と、悔しいですが認識させられます。教育現場に携わる身としては、学生に介護のリアルを私なりの解釈で伝えていく努力を、今と変わらず続けていこうと思います。
介護業界の課題を理解し、学生にも共有しているので、卒業した生徒が、「僕が、私が、変えてやる!」と言ってくれるようなバネを持った人財を育てていきたいです。それが私に出来る介護業界への恩返しかもしれませんね。
編集後記
介護業界を志す学生にとって、現場経験のある先生から学べる機会があることは、とても貴重ではないでしょうか。「現場と教育の場で学ぶことのギャップ」を身をもって知っているからこそ、教育に携わる身として、使命感をもって教壇に立たれているのだと思います。
お話をされている時の真剣な眼差しに心動かされました。将来の仕事として介護業界での就業を望む若い世代が多くいることが嬉しい反面、現場に出て感じるギャップが原因で介護業界から離れていってしまう危機感を感じたのが今回の取材で強く印象に残っている1つです。
離職率が高い、定着率が悪いと言われている介護業界だからこそ、若い世代の高い志を決して失うことのないように、介護業界に携わる皆が一丸となって支えていくべきだと改めて感じました。