今回は、話題のVRで、介護研修ツール『ケアブル』を開発された株式会社ジョリーグッドにお邪魔しました。取材時にケアブルを装着してみると、想像を越える臨場感とリアルさ!VRの技術力・プロの役者の方達の演技力が掛け合わされたバーチャルリアリティの世界。
そして、コンテンツのセリフや構成に、繊細な心遣いを感じました。今回事業開発からシナリオなど、すべての指揮をとった窪田さんに、開発秘話や介護の問題について様々な質問をしてきました!
目次
『ケアブル』開発のきっかけ
元々は飲食業界など他の業界に、弊社のVRソリューションを研修ツールとして展示会などで展示・販売をしていたのですが、介護施設から何度かオファーを頂くことがありました。
また、私の母も70歳を迎え、「介護」を身近なものにも感じ始めていました。実際に介護業界のリサーチを始めると、多くの施設が困っていて思っていた以上に、介護業界の人材不足や離職率は深刻なものと肌身に感じました。
ただ、どの施設も頑張っているのに、解決しないということは、既存の方法の中に、有効な解決策がなかなか見出しづらい状況も同時に見えてきたんです。テックの力で、解決のために何か手伝えることがあるのではないかと感じました。
こうして始動した介護研修サービス『ケアブル』は、様々な介護現場でのヒアリングを重ね、約100以上の介護職員のフィードバッグを得て完成に至った。
新人職員から、施設の代表者まで幅広い層からの声を集め、多角的な視点での意見が凝縮されている。
―実際に『ケアブル』を体験した職員の方からは、どんなリアクションがありましたか?
実際に頂いた感想は「施設の利用者目線に立つことの大切さを改めて感じた」「自分だったらどうするか意見を出し合った際に、同じ施設でも意見が違ったり、介護に対する考えなども違ったりすることが分かった。正解は一つではないので、いろいろな意見が出し合えた」などですね。
映像を2Dで見るのとは違って、VRでの体験は個人の体験に非常に近くなるんです。意見交換も、体験を通して心が動いた上で話し合うことができます。
また、集合研修にも適したツールですので、意見の交換も活発になるんですよ。
現在、最大10名〜20名程度が同時に受講でき、講師はタブレット上で、一斉操作が可能です。
教えることを諦めない。最新技術が可能にした「体験による学習」
―研修や教育のツールとして、ケアブルはどんなことが解決できるのでしょうか?また、職員の教育で課題になっていることとはどんなことですか?
最も多く頂いたのは、『コミュニケーション力や、危機予知といった“感覚がベースとなる能力”について教えることが難しい』という声でした。
確かに、個々で異なる感覚について、一言で説明や共有することは困難ですよね。かといって、忙しい介護現場で付きっきりで、先輩が後輩に指示やアドバイスをすることは現実的に不可能だと思います。
コミュニケーション力や、危機管理の感覚は、体験を繰り返すことができれば、身に付くものです。そのためには、たくさんの情報を浴び、成功や失敗を繰り返すことが大切です。
体験することが、一番の成長につながりますが、介護現場で、失敗は許されない。それが、バーチャル空間でなら、失敗もできるし、繰り返し学ぶことができるんです。
『〇〇しちゃだめ!〇〇した方が良い!』と誰かに言われ続けるよりも、自分自身が一度体験したことの方が、すんなり理解できることって沢山ありますよね。そういった体験をケアブルでしてもらえるように意識しました。
例えばこちらのシーンでは、施設利用者様の目線になって、介護職員から入浴への誘導を受ける内容です。
職員の女性が、話しかけていますが、ベッドで横になっている利用者の目線だと、どう感じるでしょうか??
圧迫感、ありますよね。一方で、しゃがんで話かけられると、利用者と職員が同じ目線になっています。
また、表情の柔らかさなど、どんな対応が安心感につながるのかも分かりやすいですね。
自分が体験して嫌だな、と感じることで、自分が介護をする側になった際に、不快に受け取られるかもしれない行動にセーブがかかり、介護される側の気持ちになって行動することができます。
また、コンテンツは解説編もあり、ある種のトレーニングゲームのような感覚で、抵抗感なく学習頂ける構成にしました。まずは、興味を持ってもらって、その先に気づきがあるよう、意識していますね。
―教育以外に、ケアブルが実現できることはありますか?
ケアブルでは、介護現場の研修制度以外に、採用強化や、認知症の方の回想法をサポートするプログラムもあります。
採用強化!企業への応募率が30%UP!
採用ツールとしても、ケアブルは非常に有効です。既に、介護業界に限らずVRは、集客ツールとして導入されていることも多いんです。
実際に採用イベント等で、導入すると、導入していない企業ブースと比べて、応募率が3割ほど増加しました。
応募に至るのは、VRが面白いからという安直な理由ではなく、“効率的な研修制度を導入している”という安心感や、仕事の魅力を伝えようとする企業の姿勢に、ポジティブな印象を持つ求職者が多いからです。
様々な情報であふれる時代だからこそ、『ここなら私もできるのではないか』という感覚をどれだけリアルに持ってもらえるかが採用強化につながります。
認知症予防に、回想法リハビリをVRで体験
施設レクリエーションイベント用のVR旅行コンテンツもあり、全国各地の観光地や、四季などをVR体験を通じて感じて頂き、回想法のサポートに活用できます。穏やかな映像が多く、これからもコンテンツの種類は増加予定です。
実際に体験して頂くと、職員の方も驚くような反応がありました。道頓堀の橋の映っているコンテンツを観た大阪出身の野球ファンの方が、阪神の試合についての思い出を語りだしたり、可愛いパンダの動画をご覧になった女性が、『可愛いねえ、おいしそうに笹を食べるねえ。まるでそこにパンダが本当にいるようだよ』と喜ばれていました。
普段あまりお話にならない利用者さまが、VRコンテンツを体験することで、思い出が蘇り、積極的にお話をしていました。
VRであれば、外出が困難な方も、観光地や普段観ることができない光景を体験することができます。
また、動画を楽しみながら、自ら首や身体を動かすので、運動の効果もあるんですよ。
ケアブル開発秘話をお伺い
―窪田さんご自身は介護業界のご出身ですか?
いえ、私は組織人材コンサル出身なので、畑違いです。なので、知らない分リサーチには時間をかけました。本を読んで勉強することはもちろんですが、現場の皆さんの協力で気づかされたことも沢山ありました。
正直、認知症についてのイメージって、いわゆる“ぼけ”が進んでいても、日常会話とかおしゃべりはされているのかなと思っていたんですね。
ですが、認知症が進んでいらっしゃる方は、あまりしゃべらず、テレビがついていても観ないで過ごされる方も多くて、驚きました。正直、『施設の利用者さまの心を動かすことができるだろうか』という課題は感じましたね。
―介護についての知識を深める中で、感じたことや発見はありましたか?
私は、子供が二人いるのですが、以前子育ての勉強で読んだ本と、介護の勉強の中でリンクすることが沢山ありました。
介護でも子育てでも共通しているのではないかと感じたのは“想像力の大切さ”です。『相手からは、同じ状況がどう見えているのか、もしかしたらこう思うかも?こう感じているのかも?』とケアブルを通じて、考えるきっかけになったらいいなと思うんです。
相手の気持ちを色々想像することができたら、思うようなリアクションが返ってこなくても、自分を責めずに、別の工夫をしてみようと、職員の方も気楽になる部分があるのではないかと思うんですよね。
前職では、様々な研修の講師のご経験を持つという窪田さん。人に何かを伝える上でのコツやポイントをお伺いしました。
『まずは、相手を認めて褒めること』だと思います。アドバイスする時って、悪い所から先に伝えてしまう人が多いと思うんです。でも、相手が考えて行動していることを否定してしまっては、モチベーションも下がってしまう。介護施設では、利用者さまの対応で必死だと思うんです。そこで先輩職員からもダメ出しばかり受けたら、逃げ場がないじゃないですか。
まずは、ここに自分の居場所があるんだなとしっかり感じてもらうこと。そうした実感を持って初めて、帰属意識や成長意欲がでてくるんじゃないかなと感じています。
―ケアブルで実現させたいことは何ですか?
介護職員の離職防止につなげたいです。離職する原因は色々あるのですが、掘り下げていくと、 “孤独感”が大半なんです。
人の役に立とうと想いをもって、介護業界に入っても、自分の頑張りを利用者さまが毎回ほめてくれるわけでないでしょうし、先輩職員もきっと自分の仕事で手一杯なこともあると思います。誰が悪いわけでもないのに、新人職員が孤独を感じて折れちゃう状況って、すごくもったいなくないですか。
プロの介護職員の方って本当にすごいんですよね。丁寧に接すること、相手に伝える努力をさぼらずにちゃんと行動に移すことができる方達。
そういった素敵なセンスを持った方の成果をケアブルでサポートして、そういうすごい人たちがいる業界なんだと、色んなところに向けて伝えていくことが本当に大切だなと。業界外の人はみんなそのことを知らないので。
VRだけで、課題の全てが解決できるとは思っていないですけど、様々な企業やスタッフの方々と協力し合って、離職を防ぐ一つのツールになれたらいいなと思っています。
介護業界でも、日々様々な技術を駆使して変化が起こっているのだとわくわくしますね。VRという最新技術と、人を大切に想う気持ちが生んだ『ケアブル』。
きっとバーチャルリアリティの世界にも、制作された方達の想いや温かさを感じることができるはず。是非一度、ケアブルの世界を体験してみてください!
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