『歩けない僕らは』監督・佐藤快磨さん―1年間の取材を通し、リハビリテーション病院のリアルを追求

初の長編監督作品『ガンバレとかうるせぇ』が、ぴあフィルムフェスティバルで2冠を受賞し、アジア最大の映画祭である釜山国際映画祭に正式出品された佐藤快磨監督が、回復期リハビリテーション病院の新人理学療法士と彼女を取り巻く人々を描く新作『歩けない僕らは』が本年のSKIPシティ国際Dシネマ映画祭で観客賞を受賞し、いよいよ11月23日より公開される。
 

今回は監督・脚本・編集をつとめた佐藤快磨さんにインタビューさせていただきました!

―『歩けない僕らは』をつくるきっかけや、想いを教えてください。

最初は、プロデューサーから『回復期リハビリテーション病院を舞台に映画を撮りませんか?』と声をかけて頂いたことがきっかけでした。今までは自分の内側からでてきたテーマでしか撮ったことがなかったので、外側にあるものと自分がどのようにリンクして、映画を撮れるんだろうと思っていたころでした。

 

この映画を撮ることが決まり、すぐに病院へ取材に伺いました。正直はじめは、歩ける自分が撮ることに対して、おこがましいのではないかと不安を感じたりもしました。
 
ですが、セラピスト(理学療法士=Physical Therapist)の方が『私たちは病気を治しているわけではないんです。でも傷害を変えることはできて、そうすると自然と患者さんの心も変わってくる。歩いて何をしたいかという気持ちに寄り添う仕事なんです』というお話を伺いました。
 
その時に、自分も何かをするために歩いている・生きているのではという点でリンク出来たんです。

―理学療法士・患者それぞれの葛藤や心情を映像化するために、意識されたことはありますか?

この映画では、身体的な表現がとても重要だと考えていました。役者さんをはじめ、監修してくださった理学療法士の方々のお力もお借りし、身体的な正確さやリアリティに沿って、感情も自然と乗ってくるんじゃないかなと思っていました。
 
他力本願というと良くないですけど、主演の宇野さんや患者・柘植を演じた落合さんの身体の役作りにも感謝しています。

―約1年間病院での取材を続けられたそうですね、印象に残っていることはありますか?

長期的に取材をさせて頂いたのですが、脚本もなかなかすぐには書けなくて、それだけかかってしまったという部分もあるんです。
 
印象に残っているのはベテランの方の施術です。リハビリは、入院して一ヶ月位で、ある程度エビデンス(実証結果)が出てしまい、退院までにどれ位回復の見込みがあるかわかってしまうものなんですが、ベテランの方は、そのエビデンスを超える回復を見せる患者さんを見てきているので、エビデンスによって限界を決めつけないで施術をしているようです。
 
取材では、本当にたくさんの方達にご協力を頂きました。取材で得た情報をヒントにしたり、興味深いと思った行動や台詞をそのまま拝借したりもしています。

―映画では、理学療法士の同僚が退職する場面も描かれていましたね。新人や若い方達の葛藤は現場でも感じられましたか?

まずは葛藤よりも、皆さん、大きなやりがいを感じてこのお仕事と向き合ってらっしゃるんだなと感じました。歩けなくなった方の人生を背負うということに、自分だったら二の足を踏んでしまうと思います。
 
それでも現場の療法士の方達は、施術後の時間も、自主練習をされていたりして、自分も頑張らなきゃなと背中を押されました。

 

―人と人の関係性がリアルに表現されていると感じました。佐藤監督が、人との関わりの中で大切にされていることがあれば教えてください。

僕もコミュニケーションを取るのがうまい方ではないので、人とつながることの難しさを感じることもあります。大切にしていると言えるのかは分からないのですが、『自分を開いていく』ということは大切だと思っています。
 
それぞれが主観をもって生きているから、ぶつかることもあるとは思うんですけど、相手に合わせすぎて本音が言えなくなることはとても苦しいことだと思うので。

―映画監督という仕事においても、意識されますか?

そうですね、目標を共有して進むと言いますか、自分の意見だけを押し付けるわけでなくすり合わせてやっていけたらいいなと考える方です。
 
今回、撮影をしていて役者と監督の関係ってリハビリと共通していると思ったんです。役は虚構の人物なので、役者さんは自分の内側からその役を作っていきます。僕は外側からその役をつくっていく。
 
リハビリも、患者さんは自分の身体を、理学療法士の方は、外側から患者さんの身体を共有している。そして一つの身体だけでなく、一つの人生も一緒に考えていくという点が少し似ているように感じました。

 
映画の製作においても、沢山の決断や葛藤があると思うのですが、仕事で悩んだときはどのように進まれますか?

自分の心が震える瞬間を大事にしています。映画って脚本を書いた時点では、嘘なんです。でも、役者さんが演じることで、本当になると思っていて。
 
自分の中で、心が震える瞬間が必ずあるので、そういうことを大切にしています。自分の信じる本当のものが見えた時が、OKなんだろうなと思います。

―宇野愛海さん、落合モトキさんとの撮影はいかがでしたか?

宇野さんとは取材時に、新人のセラピストの方にお話を一緒に伺う機会があって。その方が話しながら涙されることがあったんです。隣で宇野さんも泣いていて、二人がリンクして見えました。
 
あとは、ワークショップで宇野さんの演技を拝見したときに、ちょっと頑固なところもあるような気がして、そういった所も『遥』とリンクしたんです。

 

落合さんとは、撮影前に一緒に飲みに行って、悩みを聞いてもらったりしました(笑)最初は、半身麻痺の役を誰にお願いしたらよいだろうと不安もあったのですが、落合さんが真摯に向き合ってくださって。宇野さんも、落合さんも、誠実に役作りをしてくださったなあと感じています。

―理学療法士を目指す方やお仕事をされている方へメッセージ

偉そうなことは何も言えないのですが、現場の方のお話を伺って、頂いたものを形にしたのがこの映画だなと思っています。
 

覚悟を持って、向き合いました。ですので、療法士の方々にも観て頂きたいというのが凄くあります。是非色々な感想を頂けたら嬉しいなと思っています。

 

 
約1年の取材を経て、映画製作に臨んだ佐藤監督。実際に映画をご覧になった理学療法士の方からも、リアルだったという感想が多く寄せられたそう。
 
理学療法士と患者の方との関係性のように、同じ目標を目指しながら制作された『歩けない僕らは』。関わった方たちの様々な想いを感じ取りながら、一つ一つシーンを楽しむことができそうですね。

作品情報
映画『歩けない僕らは』
 
出演:宇野愛海 落合モトキ
板橋駿谷 堀春菜 細川岳 門田宗大 山中聡 佐々木すみ江
監督・脚本・編集:佐藤快磨

配給・宣伝:SPEAK OF THE DEVIL PICTURES

11月23日(土)より新宿K’s cinemaにて公開他全国順次
 
公式サイト
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©映画『歩けない僕らは』  2018 / 日本 / カラー / 37分 / 16:9 / stereo

 

■あらすじ

宮下遥(宇野愛海)は、回復期リハビリテーション病院1年目の理学療法士。まだ慣れない仕事に戸惑いつつも、同期の幸子(堀春菜)に、彼氏・翔(細川岳)の愚痴などを聞いてもらっては、共に励まし合い頑張っている。担当していたタエ(佐々木すみ江)が退院し、新しい患者が入院してくる。仕事からの帰宅途中に脳卒中を発症し、左半身が不随になった柘植(落合モトキ)。遥は初めて入院から退院までを担当することになる。「元の人生には戻れますかね?」と聞く柘植に、何も答えられない遥。日野課長(山中聡)と田口リーダー(板橋駿谷)の指導の元、現実と向き合う日々が始まる。

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