
介護施設での夜勤は人手が少なく、判断を誤ると事故につながる可能性もあります。
筆者は、介護福祉士として老人保健施設での勤務経験があり、夜勤業務も担当してきました。
- 『何を優先して利用者様の観察をすべきか』
- 『どこに注意すれば介護事故を防げるのか』
こうした判断に迷い、不安を感じている介護職員の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、特に、
- 夜勤を一人で任されるようになった介護職員の方
- 介護経験が浅く夜勤業務に不安を感じる方
に向けて、老人保健施設での夜勤の観察ポイントと、事故防止のための具体的な行動を、実際の体験からお伝えします。
目次
夜勤入りの時点で『基準』を作る

筆者が夜勤中に最も意識していたのが、介護現場のフロアに入った時点での利用者様の状態を、『スタート地点』として記憶することです。
- 表情は穏やかか
- 声の張りや大きさ
- 呼吸の様子
- 落ち着いて過ごされているか
夜勤中は『今どうか』ではなく、『夜勤入りの時と比べて変化していないか』を判断基準としていました。
ある日のことです。
夜勤入りの際、バイタル値を確認すると正常範囲内で、表情も穏やかな利用者様がいらっしゃいました。
普段から元気な声を出される方で、この時点では「いつものご様子(基準)」と大きな差はないように見えました。
しかし、夜勤が始まり、2度目の巡視の際に、改めてご様子を確認すると、わずかな変化に気付きました。
少し痰が絡んだような咳き込みがあり、夜勤入り直後には聞こえなかった、かすかなゼーゼーという喘鳴が混じっていたのです。
『夜勤入り時の状態』という基準と比較したからこそ、この小さな異変(差)を確信することができました。
バイタル値やおむつ交換時の、尿量・尿性状に異常はありませんでした。
夜勤中から明け方にかけて喘鳴音に大きな変化はなく、呼吸も一定のリズムで、寝静まっておられるように見えましたが、「いつもと違う」と感じた筆者は、2時間に1度、ご様子を介護記録に書くことにしました。
そして、経管栄養の対応で来た看護師に、念のため事情を説明して、『基準からの変化』を共有し、呼吸系の医療準備をしてもらったのです。
結果、筆者の夜勤中に急変は起きませんでしたが、翌日の日勤帯に、ゼーゼーの後にヒューヒューといった呼吸音も混じるようになり、状態悪化につながったと聞きました。
しかし、事前に医療準備が整っていたため迅速な対応ができ、ご家族様への説明もスムーズに行えたとのことです。
この経験から、介護職員として、『夜勤入り時の状態を基準に、変化を見る』重要性を再認識しました。
【22時〜24時】 環境変化で不安になる利用者様への対応
介護施設では消灯後、フロアが一気に静かになり照明も暗くなります。
この環境の変化で、不安を感じて落ち着かなくなる利用者様もいらっしゃいます。
ご入居して2日目の方が、1晩で30回以上トイレへ向かわれました。
その方は背中が曲がった状態でしたが、立位歩行に問題はありませんでした。
険しい表情で、介護職員の見守りにも「ついてくるな」とお怒りの様子です。
筆者は遠くから見守り、「何か問題があれば声をかけてくださいね」とお伝えし、都度、対応をしていました。
お怒りを受けたとしても、「いつもと状況が変わり、お辛いですよね」と寄り添い、穏やかにお気持ちに寄り添った対応を心がけました。
1週間もすると環境に慣れ、夜勤の時間帯に頻繁に起きてトイレに向かわれることはなくなったのです。
表情も柔らかく「あっ、付いてこんでもいいで」と口調も和らぎ、睡眠もしっかり取られるようになりました。
30回以上トイレへ向かうことがあっても、そこには理由があります。
- 緊張から落ち着きがなく尿意を感じやすい
- その場でじっとしていられない
など様々です。
お気持ちに立って不安に寄り添うことで、不穏を和らげることができる。
そこが介護のプロフェッショナルとしての技術だと学びました。
夜勤での音と動きへの注意

22時〜24時の夜勤の時間帯、筆者は物音にも注意していました。
例えば、利用者様が以下のような動きをされていないかを確認します。
- ふとんの『ガサッ』という音から、上体を起こされていないか
- 布団の音が続くことで、起き上がられる回数が増えていないか
- 『ギシッ』という音がした際、ベッド柵を掴もうとされていないか
- 周囲を見回す様子から、「そろそろ動こう」とされていないか
などです。
こうした物音に気づいた際に、居室へ訪室を増やすことで、事故防止の確率を上げることができます。
また、介護現場での居室環境の確認も欠かせません。
- 床に物が落ちていないか
- 歩行器を使用される利用者様であれば、ベッドから立ち上がった際に歩行器が掴める位置に置いてあるか
- 夜間照明が真っ暗になっていないか
利用者様によっては、車いすをベッド近くに置いておくと、つまずいた先で車いすに当たり大けがをする可能性もあります。
睡眠薬・睡眠導入剤を服用されている方は、日中の立位・歩行動作にさほど問題なくてもふらつきやすく、転倒リスクは高くなります。
このような介護事故防止のための視点は特に気を配りましょう。
【24時〜4時】夜勤の深夜帯『寝ている=安全』ではない
24時〜4時の夜勤の時間帯は、入眠されている利用者様が多いため、巡視に主な比重を割きます。
2時間おきに安否確認と転倒や不穏が起きていないかを見守ります。
発熱や体調が優れない利用者様の場合は、1時間おきに巡視をします。
巡視の最重要事項は、安否確認です。
利用者様は、ベッド上で横になっている間に、急変を起こされることもあります。
ベッド上で急変が起きた場合、誰にも気づかれないまま、事態が悪化してしまう恐れもあるのです。
介護職員として巡視のたびに『呼吸をされているか』をしっかり確認することは大切です。
眠っている利用者様を起こしてしまうと睡眠障害の要因となるので、筆者は、かけ布団の上下の動きを見るようにしていました。
呼吸が荒い場合や弱々しい場合は、かけ布団が呼吸のリズムで動きません。
居室の温度と湿度の確認も忘れがちですが、重要です。
高齢の利用者様は、暑さや寒さを感じにくいこともあり、また、ご病気によって体温調整がしづらい方もいらっしゃいます。
脱水や熱中症を防ぐためにも、介護職員として気を付けるべきポイントです。
『寝ている=安全』ではありません。
夜勤時こそ、観察が必要なのです。
【4時〜7時】夜勤の早朝帯『複数名が同時に起きられた時』の優先順位
朝方は、一気に利用者様が起きられる日があります。
トイレ、身支度、「そろそろ起きなきゃ」というお気持ちからです。
非常に介護事故が起きやすい時間帯です。
筆者は、1人で利用者様を20名見る環境でした。
全ての利用者様を同時に見るのは不可能。そこで、優先度の高い方から順にケアを行っていました。
ある朝のことです。
立位が不安定なA様とB様がいらっしゃいました。
A様はベッド上に翌朝の衣類を準備しておくのが習慣でした。
起床後はベッド上にて更衣されます。
B様はまず起床後、居室トイレにて排せつへ向かわれます。
この場合、私はB様を第一優先として介助を行いました。
立ち上がりからトイレ移動、便座への座位までを介助し、A様の元へ向かいます。
A様が更衣を難しそうにされていれば、更衣の補助を行い、その後、整容のため洗面台の方へご誘導します。
整容をされている間にB様の元へ。
B様の排せつ後、ケアを行うといった流れで対応をしていました。
介護職員として重要なのは、利用者様1人1人の介護事故リスクを把握すること。
そして、介護事故が同時に起きそうな場合、介助の優先度を比べ、高優先度の方からケアしていくことです。
介護事故を防ぐために意識していた行動

夜勤中、筆者が意識していたポイントは以下です。
- 夜勤開始時の利用者様の状態を基準に、変化を見る
- 不穏があれば、落ち着くまで寄り添う
- 時間帯ごとに起こりやすい介護リスクを予測しておく
- 全ての利用者様を一度に見れない時は、高優先度の方からケアをする
利用者様の変化を見る視点を持つだけでも、夜勤中の判断は大きく変わります。
夜勤に不安を感じている方にとって、本記事が少しでも参考になれば幸いです。
用語解説
- バイタルサイン…生命兆候のこと。脈拍・呼吸・体温・血圧・意識レベルの5つが基本。5つのそれぞれの値を見て正常か異常かを判断する。
- 喘鳴(ぜんめい)…呼吸をするときに、ヒューヒュー、ゼーゼーなどと音がすること。
- 尿性状(にょうせいじょう)…尿の状態のこと。 色によって正常か臓器のどこに異常があるかの手がかりを探る。
- 経管栄養(けいかんえいよう)…自分の口から食事を取れなくなった人に対し、鼻あるいは口から胃まで挿入されたチューブや、胃瘻(いろう:胃から皮膚までを専用のチューブで繋げる)を通じて、栄養剤を胃まで送る方法。
- 不穏(ふおん)…不安げで落ち着きがなく、興奮する状態。
- 上体(じょうたい)…身体の腰から上部。上半身。
- 居室(きょしつ)…継続して居住する部屋。
- 訪室(ほうしつ)…利用者様の部屋を定期的に訪問し、体調や安全を確認すること。
- 急変(きゅうへん)…病状が急激に悪化すること。
- 介護事故(かいごじこ)…介護施設において、または、介護サービス提供中に起きた事故のこと。転倒・転落・誤飲・むせこみなど。











