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ご経歴
現役の介護職員で、“けあぷろかれっじ”の設立者でもある後藤さん。小さな頃は、ダイビングインストラクターになることを夢見ていた。そしてプライベートでは、家庭内暴力や、ご家族の鬱を支え、乗り越えながら、2000年2月から、約17年間同じ法人に勤務した。その間に、介護福祉士・ケアマネジャー・社会福祉士と資格も取得。
2018年の9月より、ステップアップのために転職をされ、現在は、副施設長としてご活躍中だ。プライベートでは、二人の娘さんのお父さんでもあり、キャンプやBBQなどご家族でアクティヴに休日を過ごすことも多いそう。そんな後藤さんに、今回のインタビューでは、人間関係の悩み・スキルを中心に、様々なことをお伺いした。
介護職についたきっかけ
「小学校4年生の頃、祖父に連れられて行った海でのダイビングで衝撃を受け、インストラクターを目指していました。高校を卒業後に、兵庫県明石市にてダイビングインストラクターとして働き始めました。
実は、幼い頃父からの家庭内暴力もあって、早く家を出たいという気持ちも強かったんです。早く自立したかったんですよね。ですが、当時の月給は約6万円で(笑)自立どころか現実的に生活していけるのかなと考えて、1年ほどで退職しました。それから地元の千葉に戻って、母の友人から介護の仕事を紹介されました。正直、右も左も分からない状態で介護業界へ飛び込んだんです」
―未経験の状態から、17年間同じ施設に勤めることができたのは、何故だと思いますか?
「当時の先輩や、同僚に恵まれたことは大きいですね。まだ若くて、尖っていた私を受け止めてくれたんですよね。『こんな風に、楽しそうに働くのっていいなあ』と純粋に思いました。17年間の中で、それぞれ事情があったり、合わないと感じて辞めてしまったりする人も沢山見送りました」
―辞めていく方をみて、どう感じていましたか?
もちろん、人によって続けたくても続けられない人もいますので、一概には言えないのですが、人間関係などのトラブル等で辞めていくのは、正直もったいないように感じました」
―後藤さんは、人間関係のトラブル等、どのように受け止めていらっしゃいますか?
「それぞれの方の考えがあるとは思うのですが、私は“人のせいにしない”ということを大事にしています。退職自体が悪いことだとは全く思っていないのですが、上手くいかない理由を、他人のせいにしてしまったら、そこで終わってしまうと思うんですよね。
『○○のせいで、自分のやりたいことができない』と結論付けずに、本当にそうなのかなあ?と考えています。なので、上司や部下や環境だけが原因ではなく、”良い環境にできない自分にも原因があるのではないか“と考えるようにしていますね」
今からできる!イライラ感情を、上手に処理する2つの方法
環境や他人のせいにしない方が、別の視点で原因や解決法が見えることや、可能性を潰さずに前に進むことができると考える後藤さん。それでも、どうしてもイライラしてしまったり、不快な気持ちになってしまったりするときはどうしたら良いのか。今日から取り入れることができる実践方法をお伺いした。
- その場から一時的に離れる
- 紙に書き出す
「人間誰しもいつだって笑顔でいることは難しいですよね。どうしてもイライラしてしまった時は、お手洗いに行くなど、その場を一時的に離れることも必要だと思います。一息ついて、相手に向かう感情を落ち着かせて、どう言えば伝わるか、自分には本当に改善点がないのか考えてみて欲しいです。
それでもやっぱりイライラしてしまう、そんな時には紙に感情を書き出してみると良いですよ。ワーッと文字にしてみることで、意外とすっきりするものです。また、なんでこんな気持ちが生まれたのだろうかと客観的に自分の感情を文字として見て、整理することが出来るのでおすすめですね」
― 一番やってはいけないNG行動はありますか?
「“感情を溜め込んで、何も行動しないこと”ですね。不満やネガティヴな感情と共にその時間を過ごすことでは、何も生まれないです。そして、その感情の行き着く先は、人のせいにしてしまったり、諦めてしまったりすることだと思うんです」
人間関係を改善させる方法
後藤さんは、人間関係に悩んでいる方に一番おすすめしたいことは「自分自身と徹底的に向き合うこと」だと教えてくれた。
「『○○さんって嫌だよね』『なんであんなことをするんだろう』人間関係で悩んだときには、自然と対象となる相手を批判的に考えてしまうことが多いですよね。“けあぷろかれっじ”でも、取り組んで頂くことの一つですが、まずはじっくり自分を見つめることを推奨しています。
※けあぷろかれっじ…当たり前の生活を『生ききる』為の支援実践者を養成するため設立された。セミナー等を通して、現場への提案や助言、実践を行っている。
“自分と向き合うことで生まれるメリット=できることが見つかること”なんです。
自分にもまだ工夫できることがある、こういった伝え方をしてみたら何か変わるかもしれないといった課題が発見できます。
私自身も、自分の過去や内面とじっくり向き合うことは、とっても嫌でした。ですが、じっくり自分を見つめ直すことで『自分はこういう傾向があるかもしれない』『もっと別の伝え方をした方が良かったかもしれない。よし、次から実践してみよう』と明日以降の自分へヒントになることが沢山見つかったんです。
対人関係で言えば、入居者の方も同様です。たとえば入浴したくないという方がいても「入浴拒否」と捉えないでほしい。私達だって入浴したくない時間帯もありますよね。こちらの入浴して欲しいというプランを押し付けるのではなく、一緒に身体を動かして、「暑いですね、汗をかいたからさっぱりしたいですね」というような自然な会話や、本当に相手が共感しやすいような環境をつくることが大切です。
後藤さんが代表を務める“けあぷろかれっじ”では、介護職員の方に向けて、感情の整理の方法や、上手に伝える方法も共有しているそうだ。
スキル向上のためにできる3つのこと
1.“なぜ”を考え続け、物事の根拠を理解すること
2.仲間をみつけること
3.挑戦すること
続いて、介護のスキル向上のために大切なことを3つ教えて頂きました。
「まずは、普段何気なく行っている動作の“なぜ”を考えてみることです。意外と理解していなかった新しい発見があると思います。他人に説明する際にも、根拠を持って説明することができなければ、知識として習得していることにはなりませんよね。“なぜ”を考え続けることを習慣化して行けば、自然と習熟度が上がり、実践することで飛躍的にスキルが上がっていくと思います。
次に、仲間をみつけて『○○の介助が上手になりたいんだけど、力を貸してくれないかな??』と声をかけてみたり、同じ施設でなくても、研修に参加している人とコミュニケーションを取って仲間をつくったりすることは、皆さんが思っているよりずっと簡単なことです。業界を良くするために、仲間を必要としている人が沢山います。そして、沢山現場で経験を重ねることです。やってみないと、スキルは身につかないものだと思いますね」
失敗ではなく、全てが経験!糧になる!
「私が尊敬している方の一人、杉本浩司さんに教えて頂いたことなのですが、今も大切にしていることがあります。それは『何か行動をしたら、必ず上手くいかないこともある。それを失敗と捉えてはいけない』ということ。
1つ行動を起こしたならば、必ず1つ経験が増えたということですし、上手くいかなくても、上手くいかなかったという経験ができたと捉えることです。無駄になることなんて、一つも無いんですよね」
転職するとき、確認すべきポイント
17年勤めた施設から、ステップアップのために転職された後藤さんに、転職のときに確認すると良いポイントをお伺いした。
「床は汚れていないか、布団は綺麗にたたまれているか、現場で働くスタッフは挨拶をしているか、スタッフの笑顔はあるかといった細かいところこそ見ておくと良いと思いますね。介護は究極のサービス業だと思うんです。細かな気遣いができている施設は、きっと良いサービス・良い施設なのではと個人的に捉えていますね」
介護職に誇りを・正しい理解を
―現在の後藤さんの目標は何ですか?
「今の目標は、介護職の仕事を正しく理解してもらうこと。そして、介護職員たちにもっと自分の仕事に誇りを持ってもらうことです。介護業界のネガティヴなイメージを持たせてしまった原因は、僕達自身、つまり介護職員達が正しい情報を伝えていなかったことも原因の一つだと思うんです。逆に『本当はかっこいい仕事なんだ』『介護って素敵なことなんだ』と伝えることができるのも、私達自身以外いないはずなんです。
だからこそ、現場の職員にはもっと誇りを持って欲しい。沢山チャレンジして、成功体験をして自信を持って欲しいです。そして、正しく介護の仕事を理解してもらうために、みんなで伝えていきたいと思いますね。そのためにも、まずは自分の施設の職員や、関わる方たちに活き活きと働いてもらうことが大切です。口だけで理想を語るのではなく、私自身が楽しく誇りを持って働くことで、後輩達に何かを感じてもらえたら嬉しいですね」
介護バトンコーナー
・武藤洋一さんからのご質問
聴覚障がいのある方・聴覚障がいの方の介護について、どんなイメージやお考えを持ちますか?
・後藤晴紀さんのお答え
語弊があるかもしれませんが、私は視覚障害の方や、聴覚障害の方、高齢者の方の介護のイメージは同じです。
それぞれの方の生きがいや、やりがい、役割や生活があって、私たちは困っていることを解決したり、サポートをしたりすることだと思っています。
認知症や障がいをお持ちでも、ネガティヴではなくポジティヴに生活できる環境を整えること・当たり前の生活を守るということに関しては、同じだと考えています。
happyかhappyではないかはとても重要です。その為にも、障がいにフォーカスするよりも、その“人”にフォーカスしないといけないと考えています。ただし、僕は手話で話すことができません。聴覚や視覚に障がいのある方の本当の困りごとを解決することは、一人では難しいです。そんな時には、友人や繋がりのある専門職の方に協力をお願いします。今回、武藤洋一さんとのバトンを繋いで頂きました。
早速、Facebookでも友達申請をしました(笑)こうした縁も大切にしながら、それぞれの専門職がチームとして、その方と向き合い、happyを共に考え、困りごとの解決に全力を注ぐことができたらと考えます。
編集者が伝えたい後藤さんはこんな人!
明るく、ハキハキとお答え頂く姿が印象的な方。そして、ご自身の全ての経験をポジティヴに消化している方。家庭内暴力や、ご家族の鬱・介護など、後藤さんにかかる負担は、決して小さなものではなかったはずだ。
若い頃は、どうしてこんな想いをしなければいけないのだろうと思ったこともあるという。しかし、介護の仕事を始めてから、沢山の人々との関わりの中で、後藤さんは自分自身と深く向き合い、「どうしよう」ではなく「どうしたら良くなるか」を考え、行動を続けてきた。
他人や環境のせいにしない=全て自分に原因があるということではない。忍耐強いことが美学ということでもない。介護の仕事を通して、やりがいや楽しさ、居場所を見出すことができたからこそ、介護のプロとして、本当に質の良いサービスを提供したいという想いが原動力となったのではないかと感じた。
そのために、人間関係の悩みなどの取り除けることや解決できることは沢山あるということを、後藤さんはより多くの介護職員の方に伝えたいのだ。是非、ひとりで悩み苦しむ時間をポジティヴに自分と向き合う時間に変えていって欲しい。
後藤さんのように、一人ひとりが介護業界の素晴らしさを発信していく時間が増やすことができたら、もっともっと素晴らしい業界になるに違いない。
◆宮城県仙台市出身・けあぷろかれっじ設立◆介護福祉士/ケアマネジャー/社会福祉士/潜水士◆趣味:サイクリング、ダイビング、水泳、人間観察などなど。面白いものは何でもチャレンジ